(2)情報の目利き
逆に、大量の情報がシステム上に蓄積されているのに、ゴミだらけで利用者が活用できないという事態もよく発生している。インターネットの世界では玉石混交の情報でもGoogleの「PageRank」のように「ほかからリンクされているWebサイトは重要なWebサイト」といったシンプルなルールでゴミ情報を排除し、質の高い情報だけを表示できる。しかし、企業内コンテンツで何が重要で何がゴミであるかを判断するのは、最後はヒトの力に頼らざるを得ない。
そこで、流通している膨大な情報の中で本当にユーザーが利用すべきものだけをピックアップする目利きの役割をナレッジ・センターが担うことで、活用度を高めることができる。
サービス業B社では営業ポータルをクラウドで構築し、営業に必要な商品情報、提案書、事例、レポートなどを掲載していた。しかし、掲載されている情報量があまりに膨大でその中から本当に必要な情報を探し出すことができず、ユーザーの利用は低迷していた。
そこで、ナレッジ・センターが毎日、営業スタッフが本当に見るべき情報だけを厳選してポータル上で「今日の必読情報」として取りまとめたところ、ユーザーの利用度が格段に上がった。人の目で選ばれた質の高い情報だけが集約されているということが信頼感を生み出したのである。同時に、業績の良い営業スタッフが閲覧している情報を利用ログから分析し「トップ営業が見ている情報ランキング」としてポータル上で公開したことも反響を呼び大きな利用促進につながった。ヒトの力を少し加えることで情報の活用度を高めることができるのである。
(3)情報活用力レベルアップ
IT活用力は、最後は個々人のスキルにかかってくる。ITの進展により情報を誰もが簡単に発信できるようになった。しかし、そこで発信されている情報の中身は、お粗末なものも多い。昔は社内文書1つ作るにしても、全社に印刷して配布するものはしっかり作らねばと、何度も推敲した上で上司がレビューをしていた。しかし最近では、誰でもボタン1つでイントラネットやメールを通じ、簡単に情報発信できてしまうため、読みにくい、分かりにくい文書が氾濫し、現場の生産性を下げるという状況が見受けられる。
そこでナレッジ・センターの役割をもつ部署や担当者が分かりやすい文書作成の能力を高めるための研修やトレーニング、文書の添削サービスを行うことで全社的な情報作成力の底上げを行っている企業もある。
さらに、情報活用について、Googleに慣れてしまった若手はとにかく何でもインターネットで検索して完結する傾向がある。しかし、ビジネスで本当に価値のある情報はインターネットには落ちていない。電話して、足を運んで、飲みに行って初めて聞き出せる情報もあるのだ。どのようにして価値ある情報を探し出すかという情報収集力を高めるためのトレーニングを、ナレッジ・センターが行っている企業もある。
これまでシステムを提供する情報システム部やシステム管理者に求められていたのは、システムの保守、運用、管理だった。しかし、システムのクラウド化により彼らはそうした仕事から解放され、本来取り組むべきIT活用力向上の領域に専念できるようになった。
元来ITは、人手で行っていた業務を省力化することからスタートしている経緯もあり、ITを導入すればその活用が進み、すぐに効果が出ると思われがちである。しかし、現状は違う。ITがあること自体が競争優位にならない今日、いかにヒトの力を本格的に活用できるかが、IT投資効果の最大化への鍵となるのである。
吉田健一(よしだ けんいち)
リアルコム株式会社 取締役 COO
一橋大学商学部卒。戦略系コンサルティングファーム、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンにおいて、国内外の大手企業に対する戦略立案・実行支援のコンサルティングに従事。リアルコムでは、マーケティング、営業、ビジネスコンサルティング部門を統括し、顧客企業における情報アーキテクチャーのデザイン、情報共有、ナレッジマネジメント、企業変革プロジェクトを指揮する。これまでに培った方法論と事例をまとめた書籍『この情報共有が利益をもたらす〜経営課題に適した4つの実践アプローチ〜』(ダイヤモンド社)を監修。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授