いくら優れたITを用いたとしても、企業のIT活用力を高めることはできない。最終的には人間の力を投じて実現するしかないのである。
クラウドにより企業がITを「作る」ことから解放され「使う」ことに専念できるようになった今日、企業に足りないものはもはやITではない。ITがあることは当然で、ITをどう活用してワークスタイルを変革するか、ITの上で流通する情報の品質をどのように高めていくかが重要となってくる。
この10年で企業のIT活用は劇的に進み、電子メール、イントラネット、ナレッジマネジメント、SFA(営業支援システム)など社内にツールやシステムが乱立した。クラウドの登場によって、ユーザー部門は業務ニーズに合わせて必要なITをますます即座かつ安価に手に入れられるようになった。企業のIT活用はもはや大前提で、アプリケーションやシステムが多過ぎて使いこなせないことが課題になっているのだ。
組織としてのIT活用力とIT投資の関係を論じた「IT投資で伸びる会社、沈む会社」(平野雅章著)によれば、国内上場企業の財務データを分析するとIT投資と企業業績の関係は「組織IQ」というITを使いこなす組織力に大きく左右されるという結果が出た。具体的には、以下のような関係があるという。
−組織能力が高い企業は企業業績が高い
−組織能力が高い企業がIT投資をすると企業業績が高くなる
−組織能力が低い企業がIT投資をしても企業業績は低い
−IT投資をしても企業業績は上がらない
−IT投資をしても組織能力は高まらない
すなわち、IT投資は高い組織能力を活性化させるための手段だということである。ITを使いこなす組織能力があって初めて、ITは効果を出す。ITを使いこなす組織能力もないまま、やみくもにIT投資しても無駄になる。IT投資の前にまずは組織能力を高める方が最終的に企業業績に結び付く可能性が高いとも言えるのだ。クラウドによりITがコモディティ化した今日、企業が取り組むべきことはIT投資ではなくIT活用力の向上なのである。
お酒が二日酔いの処方せんにならないのと同様に、ITによってIT活用力を高めることはできない。IT活用力を高めるにはヒトの力を投じて実現するしかない。幾つかの先進企業では、クラウドによるITの利用拡大と併せて、IT活用力を高めるための体制を構築している。こうしたIT活用力を高めるための体制をナレッジ・センターと呼ぶ。ナレッジ・センターには(1)情報編集・登録、(2)情報の目利き、(3)情報活用力レベルアップという3つの機能を持つことが多い。以下では、それぞれのケースでどのようにIT活用力をヒトの力で高めているか、事例を交えて見ていく。
(1)情報編集・登録
クラウドで情報システムをリリースしても、社員が活用すべき情報やデータが入っていなければ誰も使わない。ハコはできたが誰も情報を入れてくれない、こんな経験のある会社も多いだろう。これは当たり前のことで、皆のために自分の時間を削ってデータを作成し登録する人はいないと思った方がよい。そこで、情報システムに必要なデータをナレッジ・センターが編集して登録することで、効果的な情報流通を実現できる。
製造業A社では営業スタッフ向けのSFAシステムをクラウドによって短期間で構築した。このSFAシステムではベストプラクティス(好事例)を登録する機能が売りであったが、知識を持つベテランの営業は好事例を投稿しなかった。そこで、ナレッジ・センター担当者が、毎月のトップ営業マンのところに訪問し、営業好事例のノウハウを聞き出してSFAシステムに掲載することでベストプラクティスが集積されていった。ベストプラクティスは利用者の間でも人気コンテンツとなり、SFAシステムの利用が爆発的に広がるきっかけとなった。
ハコを作っただけで情報が登録されないような場合には、ナレッジ・センターで集中して情報の編集・登録を行うことでIT活用度が高まるというのがポイントだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授