儲かるITを実現するためには、「仕組み」やそれを使う「人」に目を向けなくてはならない。シンプルで高品質のデータ活用の仕組みが現場の収益活動に貢献する。
儲かるITを実現するためには、まずIT部門が商売を知ることであり、儲けるという実体験をするべきであると前回述べた。しかし、それだけで儲かるITは実現できない。次に目を向けなければならないのは「仕組み」であり、それを使う「人」である。
人とは、システムを使うユーザー部門のこと、仕組みとは、情報システムを指す。システムを利用する人に適切なITスキルが備わっており、それを前提としたシンプルで高品質のデータ活用の仕組みが、最も現場の収益活動に貢献するのである。
しかし、そのバランスを取るのは意外と難しく、崩れているケースが散見される。人と仕組みのバランスが崩れるケースは次の2つである。
1.情報システムに偏っている
【例1】生産、販売、在庫の実績と市場情報の数値から月末の着地を予想し、翌月の生産、販売計画を自動生成するという仕組みを構築したとする。いわゆる、需要予測システムである。果たしてこの計画に基づいて部材の手配、生産、販売を実施して収益が上がるだろうか。そんなに簡単に儲かるほど商売は甘くない。
確かに、人間の勘と経験だけで計画を作成すると、担当者の思いが強く反映されて、計画値が膨れ上がり、在庫増になる可能性が高い。しかし、商品の売れ行きはいろいろな条件によって変わる。天候、景気、他社競合製品、ブーム、品質問題など、未来を予測するのは画一的な条件設定では難しい。そのためには社内にある事実データとビジネス環境の両方の情報を活用し、市場の動きを肌で感じている人間が事業計画をコントロールするのが最適といえる。需要予測をシステムに依存するのは、時間とお金の無駄になりかねない。
【例2】新製品の生産計画を見直す場合、受注や出荷実績の推移だけに頼るのではなく、コールセンターへの問い合わせ、クレーム、修理依頼などの品質情報の件数や内容を分析した上で、生産計画を見直すべきである。新製品の受注、出荷が順調に推移していても、製品の取り扱いについての問い合わせやクレームが多く入っていると、製品に何らかの品質問題を抱えている可能性が高いといえる。これが品質事故につながると途端に返品の山になってしまう。
しかし、実際には受注システムとコールセンターシステム、品質管理システムは管理軸が異なり、単純に製品軸や売り上げ時期でデータをマージできない。こういう部分については、難しいという理由だけでユーザー部門に押し付けず、IT部門側でデータの整合性を取り、ユーザー部門が簡単に検索し、比較分析できる仕組みを提供すべきである。どのような比較、分析を行うかはユーザー部門に任せるべきである。
2.人のスキルに依存し過ぎる
基幹システムを再構築する際、管理帳票の開発を止めて、ユーザー部門にデータで提供する方法を最近よく見掛ける。「ユーザー部門で必要なレポートは自分たちで作成してください」というスタンスである。これは、ユーザー部門がIT部門にその都度依頼することなく柔軟かつ迅速にレポートが作成できるものの、ユーザー部門の手作業は大幅に増える。仕組みがユーザー部門の生産性を上げていると考えるのはIT部門だけである。
IT視点ではIT部門のバックログが減り、ユーザー部門の満足度も上がる有効な開発手法といえる。しかし、会社全体で考えるとユーザー部門にレポート作成負荷が掛かるため、生産性は低下しているのだ。また、特定のパワーユーザーのレポート作成スキルに依存した業務形態になってしまい、アウトプット情報の統制が取れず、PDCAを回すスピードは、パワーユーザーのスキルに左右されてしまうことになる。ユーザー部門にレポートを作成する自由度を与えた上で、PDCAのスピードを上げる仕組みを提供するといった、人と仕組みの適切なバランスが必要である。
このように会社の風土、文化や業務特性によって、人と仕組みのバランスは微妙に変わる。このバランスを変化に合わせて常に適正化しておくことが、儲かるITの条件といえる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授