では、解決策は何か。以下の2つを提案したい。
1.個別最適の集合体を擬似的に全体最適化する
個別に最適化された業務システムをすべてERPシステムに移行して全体最適化を図ることは既に失敗している。非現実的な方法であり莫大なコストが必要である。しかも、ほとんど付加価値を生まない。少し視点を変えて、全体最適化を考えることが必要である。
全体最適とは誰にとって最適であるべきか。これは、すべてのユーザー部門に最適であり、その上で会社全体のシステム利用にも最適でなければならない。理屈は簡単であるが、具体的には非常に難しい。これを実現するには個別最適と全体最適の両立を実現することである。現行の個別最適システムを最大限に生かして、ユーザー部門や経営者に接する部分だけ全体最適化する。擬似的に全体最適化を実現する方法を考えれば良いのである。ユーザー部門に接する機能は入力機能、出力機能、ワークフロー機能である。
2.業務システムごとに不整合なデータの整合性をとる
これはMDM(マスターデータマネジメント)のことである。現在、MDMツールとしてETL(データをつくる機能)やEAI(複数のシステム同士を連携させデータやプロセスを統合すること)が活用されているが、決して十分とはいえない。その原因は、データ間の整合性を維持するために24時間365日体制でデータの整合性を図る変換条件をメンテナンスし続けなければならないからだ。しかも、データの整合はリアルタイムに保たれてなくてはならない。これについても1と同じように擬似的にデータ統合を図る方法が最適である。具体的には、マスター管理、トランザクションデータ管理、データ転送管理の疑似統合化を行うのである。
しかも、企業全体のデータを正規化して、全体最適を図ろうとせず、ビジネスの判断に必要なデータに優先順位をつけて、有効なデータ群から疑似統合を図ればよい。ITの仕組みとしては不完全で不安であるが、システムの完成度よりユーザー部門へのサービスレベルとその費用対効果から評価すべきである。ITシステムの責任はIT部門にあるが、ITシステムはユーザー部門と会社のためのものである。ここを取り違えてはいけない。
解決策1、2をまとめると、業務システムの共通機能を標準化し、外出しにするということである。これを「業務システムのレイヤー化」と呼ぶ。
上記のレイヤーをすべてそろえる必要はなく、優先順位をつけてユーザーサービスレベル向上に寄与する順番に構築すればいい。
ユーザー部門がシステムを利用する目的は、日常業務の遂行そのものである。システムの改修を要望するのは、業務効率の向上であり改善である。一番の狙いは収益を生み出すための業務改革を実現するためのツールとして活用することである。
ユーザー部門からのITシステムへの要望は、目的ではなく業務改革のための仕掛けや検証の一部を担うツールの提供である。ユーザー部門からの要望の頻度は増し、要望内容は多岐に渡ってくる。
IT部門とユーザー部門の役割分担を最適化し、IT部門はITインフラの運用とデータ精度の保証に徹し、ユーザー部門は自分たちで必要なアウトプットを作成する。人のIT活用力向上とその仕組みの品質向上、データの鮮度管理の両輪で現場力の向上を図ることが、儲かるITを実現するのだ。
岡政次(おか まさじ)
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 バリューエンジニアリング部。1977年シャープ株式会社に入社。本社IT部門に在籍し、10年強の新人教育、標準化・共通システム化を担当。さらにシステム企画担当として、ホスト撤廃プロジェクト、マスター統合、帳票出力基盤の構築等に携わる。2007年4月、ウイングアークテクノロジーズ株式会社に入社。現在、企業のアウトプットの最適化ソリューション「OPM(Output Performance Management)」の提案活動を展開中である。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授