「IT部門のリーダーこそ現場に飛び出せ」――ITR・内山代表IT投資の新方程式(1/2 ページ)

低迷からの脱却が求められる2010年。企業のリーダーこそが真っ先に現場に出るべきだとITRの内山代表は語る。

» 2010年01月01日 00時00分 公開
[聞き手:浅井英二,ITmedia]

 「リーマンショック」に端を発した世界的な経済危機は猛威をふるい続け、ついには2009年に景気が完全復調することはなかった。IT調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)のIT投資動向調査にも企業の苦しみが如実に反映されている。停滞感を打破し再びビジネスを成長軌道に乗せるために何をすべきか。同社代表取締役の内山悟志氏に聞いた。


2つのコスト削減

ITRの内山悟志代表取締役 ITRの内山悟志代表取締役

ITmedia ITRが毎年実施しているIT投資動向調査において、2009年度は過去最悪の数字を記録しました。日本企業のIT投資の現状についてどうお考えでしょうか。

内山 景気の先行きに対する不透明感は2008年初頭からあったものの、一般的に企業のIT責任者の投資意欲は実際の景気状況よりもワンテンポ遅れる傾向があるため、2008年の投資意欲の落ち込みは微減にとどまりました。ところが、2009年度のIT予算を考える時期(2008年11〜12月ごろ)に、「トヨタショック」に代表される日本の製造業の大規模な労働調整などが行われたことで、一気に投資に対する意識が冷え込みました。経営者からはコスト削減を厳しく迫られ、新規投資は縮小、凍結になるなど、最悪な環境で予算作成に臨んだことが2009年の投資減の大きな理由でしょう。

 2010年のIT投資については、期待を込めて前年と横ばい、もしくは増加とした企業も多いですが、実際に予算作成の段階では2009年と同様にコスト縮小を経営者は叫ぶでしょうから、以前のように戻るとは考えにくいです。厳しい見方をすれば、今年も昨年と同様の数字で推移するのではないでしょうか。

ITmedia どの企業も一様にITコストの削減に取り組んでいます。賢いコスト削減、あるいは、駄目なコスト削減というものはありますか。

内山 ITRでは、コスト削減に関して「建設的なコスト削減」「非建設的(破壊的)なコスト削減」の2つを示しています。前者は、端的に言うと無駄をなくすということです。例えば、効果の高い投資案件に絞り込んだり、無駄な改修や保守開発を減らしたり、資源効率の高いアーキテクチャなどを活用したりすることで、ぜい肉をそぎ落とし筋肉質な運営を図っていきます。情報システムの監視やサポート、ヘルプデスクなど人に依存する業務をなるべく統合、集約化しておくことも重要です。

 一方、破壊的なコスト削減とは、無計画に新規開発を一律ストップしたり、改修や保守開発を一律凍結したりすることです。もちろん新規投資の中には、必ずしも今年やらなくてもいいものや、部分的に行うだけで十分なものもあります。しかし一律カットとなると、本当に重要な戦略的な投資や企業の成長をうながすような投資、競争力の源泉になっているような投資まで削減する恐れがあるため危険なのです。

 例えば、サポート要員やアウトソーシングなどの業務委託費を減らす努力を多くの企業が行っていますが、細かく分析せずに「半減しろ」とか「すべて引き上げろ」というのはサービスレベルを低下させるリスクを伴います。障害や災害への対策レベルを下げるのもコスト削減の手段ですが、これは生命保険の月額費用を下げるのと同じで、リスクの度合いとバランスを考えることが不可欠です。

 ハードウェアやソフトウェアなどシステムの安物買いにも気を付けるべきです。安価なものを買うということ自体は間違ってはいませんが、これまで自社で構築してきたアーキテクチャの上で整合性が取れるものを選ぶ必要があります。後々にシステムが肥大化したり、より複雑化したりということに気が付いても後の祭りです。

避けて通れないWindows 7

ITmedia コスト削減が至上命題とはいえ、セキュリティ対策については多くの企業で投資比率が高まっているようです。例えば、(マイクロソフトの)「Windows 7」など新しいOSの登場によって、長年使い続けたクライアントPC環境の更新がユーザーの関心事の1つと言えます。

内山 Windows 7への移行計画を2010年のIT戦略に組み込もうとしている企業は少なくありませんし、避けて通れない課題になっています。企業PCのOSというのは、アプリケーションやデータベースなどさまざまなものに影響が及ぶため、じっくり検証した上で、以前となるべく均質な環境を保ってバージョンアップしていくことが肝要です。かなりの費用と手間、慎重さが必要になるため、多くの企業ではいつまでも先送りとばかり言っていられない時期にきています。

 そうした意味で、Windows 7は日本企業がOSをバージョンアップする過程において避けては通れないものです。Windows XPからバージョンアップする企業もあれば、XPからWindows Vista、Windows 7と段階を踏む企業もありますが、いずれにせよ迂回すべきではないOSだという印象を持っています。

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