今回は、企業経営について日本経済再生や国民生活といったマクロの観点から検討してみたい。企業経営が個の最適化だけを狙いがちだが、そこには大きな落とし穴が待ち構える。
増岡直二郎氏による辛口連載「生き残れない経営」のバックナンバーはこちら。
今回は、企業経営について日本経済再生や国民生活といったマクロの観点から検討してみたい。企業経営が個の最適化だけを狙いがちだが、そこには大きな落とし穴が待ち構える。
7月20日付日本経済新聞に、「収益最高企業特集」が組まれた。4ページに快進撃する企業への賛辞が踊る。これを見て、背筋の寒くなるような危機感を持ったのはわたしだけだろうか。
特集は、「リーマン・ショック後の景気低迷下でも2009年度の利益が過去最高となった企業が相次いでいる。09年度は上場企業の約1割が過去最高益を更新した。「強い会社」を実現する秘訣(ひけつ)はどこにあるのか。各社の戦略や経営革新の実態を探る」と説き起こす。
しかし、記事をよく読み解いていくと、「強い会社の秘訣」の陰には日本崩壊の筋書きが見えてくる。実に恐ろしいことである。少しの間、日本経済新聞の分析を辿ってみよう。
「中期経営計画で最高益を狙う主な企業」例として8社が挙げられているが、そのうち60%以上の5社が海外売上高比率の上昇をその原動力としている(第1表)。
例えば、日立金属は「増産投資や人員増は国内ではほとんどない。中国・韓国・タイなど東南アジアに経営資源を振り向ける」と断言する。神戸製鋼所も中国、東南アジア、ベトナムなどでの新工場、設備建設で前期33%だった海外売上高比率を50%まで引き上げる。
特集記事は「企業、再成長へ攻めの経営」と分析するが、「攻めの経営」なる海外シフトは他国を利して自国の利にならず、国内空洞化を招く。それは、日本に限らない。例えば、米景気が踊り場局面で、建機大手米キャタピラが4 〜6月の収入が前年比30%増、社員も年初比3600人増としているが、いずれも3分の2が米国外だ。米でも全く同じように、海外シフトは国内の雇用増、消費増に結びつかない悩みがある('10.8/3付日本経済新聞)。
しかし、10年度設備投資調査(日本政策投資銀行)によると、大企業の海外投資は前年度比35%増、国内投資は7%増だ。国の無策に対し、有力企業は国を当てにできずに海外シフトをますます加速させる。一方、日本企業の海外拠点からの受け取り利息や配当は、日本経済を若干下支えするが、雇用創出の貢献は小さい。海外シフトを抑制するには、円高修正、法人税引き下げ、労働規制緩和などがよく議論されるが、内需そのものの喚起策が必須だ。
しかし、内需にも問題がある。7月20日付け日本経済新聞特集記事は、2009年度に純利益が過去最高となった企業から、3つの共通項を導き出している。1.革新的事業モデル、2.他社にない独自技術、3.市場の変化に迅速対応、だ。しかし、「連続最高益年数ランキング」企業を見ると、上位には中国・四国地方でディスカウントスーパーを展開する大黒天物産や、埼玉県が地盤のスーパー・ヤオコー、家具専門店のニトリなど、地域密着や低価格化などの戦略が奏功した小売が目立つ。一方、トリドールやハイディ日高など、低価格志向で消費者の需要変化をうまく取り込んだ外食産業が連続で最高益を更新している。
13期以上の増収を続ける主な企業にも、小売や外食の低価格志向企業が多い。松屋フーズは35期、ホームセンター大手のコメリが23期、ヤマダ電機が20期の連続増収、「すき家」の280円牛丼のゼンショー、290円の中華そばが主力の幸楽苑などは、財布の紐が固い消費者を安さで囲い込んで、店舗網を拡大する。かくの如く、成功例として低価格戦略企業が続く。
要するに、増収・増益企業に内需企業が挙げられ、「革新的事業モデル」「市場の変化に迅速対応」の聞こえはいいが、「低価格志向」の成功物語にすぎない。連続増収・増益の企業の陰で、デフレスパイラルが進む。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授