スマートとは顧客から見た価値の高さを表す。そしてリーンとは提供手段のコストの低さを表す。つまりスマートとリーンは、本来二律背反の関係である。顧客から見て価値が高くて、なおかつ安いものを提供できればその企業は競争に負けることはない。しかし価値の高いものは、コストが高くつく。それが常識だ。しかし、スマート・リーン経営はその二律背反を乗り越えて、価値の高い低コストの商品、サービスを提供することを目指すものだ。
アジアの新興国の台頭によって、製造コストの低さでは太刀打ちできなくなった日本の製造業が採用したのが、付加価値戦略だった。つまり顧客が感じる価値を高めることで差別化を図ろうとしたのだが、結局それらの高付加価値製品は、市場のボリュームゾーンで勝つことはできず、ニッチな商品として追いやられるケースが多かった。
名和氏は、AppleのiPodを例にして説明する。
「iPodが発売される以前に、日本のAVメーカーも同じような製品を開発していた。そしてiPodの中身を見て、技術的にはたいしたことのない代物だと評していました。しかし、結果として市場を席巻したのはiPodでした。なぜそのようなことが起こったのか。確かにiTunes Storeというプラットフォームを構築したことは大きい。しかし同時にAppleが徹底的にユーザーインタフェースにこだわったモノづくりをしたことも勝因の1つといえるでしょう」
名和氏はこのユーザーインタフェースの徹底したこだわりがAppleという企業のDNAの1つだとする。
「企業のDNAにはさまざまなものがあります。マーケティング調査をいくらやっても、ユーザー調査をどんなに繰り返しても、その企業が自社のDNAを認識していなければ、どんな調査報告も役に立ちません。当たり前のことか、一見役に立ちそうだがその企業が取り組めそうもないことが出てくるだけなのです」
Appleの市場独占を許した日本企業は、スマートな商品を目指したが技術的に特筆すべきものはない商品に負けた。その理由の1つとして、名和氏は日本企業が自社の持つDNAを経営戦略に生かしきれていなかったからだと説明する。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授