いま日本企業が目指すべき学習優位の戦略論――一橋大学の名和教授ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/4 ページ)

元マッキンゼー&カンパニーディレクターで、現在は一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の名和高司氏が「いま日本企業が目指すべき学習優位の戦略論」とのタイトルで、経営コンサルタントとしての永年の経験を元に日本企業の新たな成長戦略を語った。

» 2010年12月07日 08時00分 公開
[宍戸周夫,ITmedia]

 ITmediaエクゼクティブ編集部は、東京・表参道の青山ダイヤモンドホールでITmediaエクゼクティブフォーラムを開催し、「先が読めない!不確実性時代を乗り切る企業の条件」をテーマに講演を行った。基調講演は元マッキンゼー&カンパニーディレクターで、現在は一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の名和高司氏。「いま日本企業が目指すべき学習優位の戦略論」とのタイトルで、経営コンサルタントとしての永年の経験を元に日本企業の新たな成長戦略を語った。

「スマート×リーン」こそが日本企業の生きる道

マイケル・ポーターの競争戦略

 名和氏は冒頭「外資系コンサルティング会社に20年務めたが、外国流のトップダウン方式では日本の企業はなかなか変わらないことが分かってきた。そこで日本的な形で企業がたくましく育っていくための姿を考え、学習優位、つまりFamiliarity Advantageが重要と思うようになった。本日は、日本企業が忘れてしまったかもしれない日本流の経営を考えてみたい」と語り、まず、アメリカの経営学者であるマイケル・ポーターの競争戦略論を取り上げた。

 「マイケル・ポーターの競争戦略を1枚にまとめたのがこの図である。この図の縦軸(顧客価値、スマート軸)は顧客にとって価値があるかないか、横軸(提供手段、リーン軸)は商品やサービスを提供するコストが高いか安いかを示している。そしてマイケル・ポーターは、顧客にとっての価値とコストは二律背反であるという立場を取っている。つまり企業は、顧客にとって価値の高いものを高く売るか、もしくはできるだけコストを下げて売るかという、差別化かコスト競争力のどちらかの選択肢しかないといっている。そしてマイケル・ポーターは、その中間(Stuck in-the-middle)は非常に安定しないからやらない方がいいという、きわめてデジタルな立場を取っている」

名和氏

 これに対し、名和氏は「この二律背反的な考え方には限界がある。これでは、結局は左上に上がるか右下に下がるかしかないというジレンマにはまってしまう」と問題提起した。

 例えば、最近の日本企業は韓国や台湾、中国などからコスト競争力での戦いを仕掛けられ、結局はスマート軸を上に上がって生き延びようとしている。しかしその結果、ボリュームゾーンの大きな事業機会を失う恐れに直面している。一方で、リーン側に振れても際限ないコモディティゲームに陥る可能性がある。つまりは、上に行っても下に行っても企業は苦しくなる可能性があるというわけだ。

 そこで名和氏は、マイケル・ポーターの図の右上、つまりスマートでリーンの部分(スマート×リーン)こそが企業が次世代成長を目指すべき方向ではないかと指摘した。顧客に対しては価値がある製品やサービスを安く提供するという選択肢である。

 「日本企業の突破口はこの両方が交わるところにある。つまりマイケル・ポーターの図の右上を目指すというのがこのスマート×リーンの戦略である」としていくつかの事例を紹介した。

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