「日本向け」が品質の裏付けになるタイ・宝石産業に学ぶ女流コンサルタント、アジアを歩く(1/3 ページ)

タイで宝石加工製造業を営む日本人社長へのインタビューをもとに、グローバル化が進む中で日本人がどのようにビジネスを組み立てるべきかについて考察する。

» 2010年12月28日 08時00分 公開
[辻 佳子(デロイト トーマツ コンサルティング),ITmedia]

 東南アジア・タイ王国では、宝石産業が盛んで、15年ほど前から宝石の加工製造国として世界的に認められるようになってきた。本稿では、タイで宝石加工製造業を営むwell field社社長伊原 浩氏へのインタビューをもとに、タイの宝石産業の現状についてお伝えするとともに、グローバル化が進む中で日本人がどのような考えでビジネスを組み立てるべきかについて考察する。

 わたしは、これまでの記事でも述べてきたとおり、アジア新興国の実態を自分自身で学び、感じ取るために、現地を自己負担にて探訪していた。正直なところ、女性一人でこうして活動するのは、勇気と度胸とともにお金と時間も必要である。だが、何よりも必要で心強いものは、わたしのこうした活動を応援してくれる人々とのつながりである。このつながりは、ときに、思いがけない出会いや機会をもたらしてくれるのである。

 これまでに何度もタイを訪れ、現地産業の調査や取材活動をしているが、こうした活動を通じてタイの流通業者であるセントラルグループの方々とも親しくしている。セントラルグループは、いわゆる財閥グループであり、タイで“セントラル”と言えば誰もが知るデパートである。そんなセントラルグループCEOをはじめ、皆さんとつながりを持てた上に、現在では、私の活動を応援してくれるまでの関係になっている。

 今回、わたしがタイの宝石産業について調査したいということをセントラルグループの方々に伝えたところ、彼らの取引先の1つに日本人が経営する宝石メーカーがあるということを伺った。早速、わたしは、その宝石メーカーを訪問してみた。

現地宝石加工製造業の社長に聞く

本年度受賞作品

 現在、世界の宝石産業の中心は、ここタイであると言っても過言ではない。数十年前から、タイは、宝石の原産国として注目を浴びていたが、15年ほど前から宝石の加工製造国としても認められるようになっている。タイでは、年に2回、“BANGKOK GEMS & JEWELRY FAIR”、“Thai Gem & Jewelry Traders Association”というジュエリーフェアが開催され、世界中からバイヤーが訪れるほどになっている。インドやミャンマーの宝石産業も有名ではあるが、技術水準がまだ低く、日本やヨーロッパのブランドに対応できる品質にはなっていない。タイの宝石産業は、品質面・価格面ともに優れており、世界から認められているのである。

 このようなタイの宝石産業の中で功労者の一人と言われているのが、日本人が経営する宝石メーカーwell fieldである。同社は、ゴールド、シルバー、ダイヤ、他石など全てを取り扱っており、タイ国内での販売の他、日本や欧米にも輸出している。

 タイ国内では、先述のセントラルのほか、PARAGON、ISETAN、ROBINSONといった主要なデパートで取り扱われており、タイ在住の方なら誰もが知っているブランドである。ジュエリーフェア(Bangkok GEMS & JEWELRYFAIR, Thai Gem & Jewelry Traders Association)でも毎回、賞を獲得しており、タイの宝石産業でも屈指のメーカーである。本年度の受賞ジュエリーを拝見させていただいたが、素材は、Sterling Silver、Swarovski crystal、Semiprecious stone、Cubic zirconiaで作られたゴージャスジュエリーであった。今回受賞したジュエリーはSwarovskiを使っており、今後はSwarovskiとのコラボレーション企画商品をタイ国内市場で販売する予定であり、既に商品完成に向けてデザイン考察や製作に着手中である。

 わたしは女性としてジュエリーに興味を持っているが、どういう経緯でwell field社がタイでビジネス成長してきたのかにより大きな関心を持った。そのあたりのお話をwell field社の社長伊原浩氏に聞いた。

 伊原氏は、専門学校「ヒコ・みづ」のジュエリーカレッジでデザインを学び、卒業後にタイに渡った。ジュエリーカレッジ在席中には、Debeersのダイヤモンドデザインコンテストで1位になるほどの実力であったが、最初はデザインではなく、宝石を扱う方面に進むことを望み、宝石の原産国に行くことを決めたそうだ。スリランカ、コロンビア、ブラジルなどの候補国があったが、知人の伝手もあり、日本人が経営するタイの会社に現地採用枠で職に就いた。原石を買い付けて日本に卸すというバイヤーとしての業務を担い、そこで6年ほど勤めた後に、タイの現地企業として独立起業したそうだ。

伊原浩氏と

 21年前の創業当時は、バイヤーとしての事業から始めたそうだが、徐々に日本向けの加工製造業を行うようになっていった。そして、タイが加工製造国として認められるようになるのと合せて、well field社もヨーロッパ、アメリカ、アラブ諸国等との取引が増えていったそうだ。

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