ビジネスイノベーションの次世代モデルは技術王道と事業覇道のせめぎ合い――東大の妹尾氏NTTDATA Innovation Conference 2011レポート(3/4 ページ)

» 2011年02月15日 12時35分 公開
[宍戸周夫,ITmedia]

勝ち組のビジネスモデルとは

 これで、イノベーションを正しく理解することができた。それを踏まえて、講演はケーススタディに移る。現在では、実に多種多様なビジネスモデルが生まれている。

 「今のビジネスモデルを見れば日本の遅れがよく分かります」として、妹尾氏が最初に紹介したのはIntelのモデルである。

 世界のマイクロプロセッサ市場の8割のシェアを持ち、収益率は4割を誇るこの会社は、技術を最大限に生かすモデルを持っているという。妹尾氏はそのIntelのビジネスモデルをインサイドモデルと呼んでいる。

 「Intelは、どの製品アーキテクチャを標準化し、どこをオープン化するかを的確に判断することで製品レベルの価値形成を行っています。生産レベルではマザーボードのような中間的な製品の制作ノウハウを知財化し、世界へ普及することによって価値展開を行い、さらに普及レベルでも“Intel入っている”というような部材ブランドによって完成品の競争力を強化しているのです」

 つまり、基幹部品によって完成品を従属させるのが、このインサイドモデルの特徴である。PCなどの製品メーカーは、単なる部品メーカーに過ぎないIntelに従属せざるを得ない状況を、Intel自身が生み出している。

 「このインサイドモデルによって、PCの値段は下がっているのに、チップの値段は変わらず、Intelは高い収益率を実現しているのです。一方、日本企業は部材に強いといわれていますが、その部材の収益率は低いまま。どのように技術を生かす仕組みを作るかがポイントになります」

 このIntelのインサイドモデルに対し、Appleのビジネスモデルはアウトサイドモデルだという。これが次のケーススタディだ。アウトサイドモデルは文字通りインサイドモデルの逆で、日本語でいえば、完成品による部材従属化モデルとなる。

 「AppleはiPodという製品を販売するために、音楽やビデオなどの配信サービスのiTunes Storeを作り上げました。これによってモノとサービスを連携し、相乗的な価値を形成するというまったく新しいビジネスモデルを作ったのです」

このIntelやAppleのビジネスモデルに対し、日本企業の多くが得意としているのはエレベータモデルだという。これは、製品を販売することでまず収益を上げ、その後はそのメンテナンスで新たな価値を形成するというモデル。しかし妹尾氏は、「今必要なのは脱エレベータモデル」と指摘する。事業を単に同一モデルで拡大するのではなく、異なるモデルへの移行などが求められる。

 同様に、日本企業によく見られる、単体技術で価値を形成する“古典派モデル”や、本体よりその消耗品で収益を上げるいわゆる“プリンタモデル”からの脱却も求められる。そのためには、何が必要か。

 「他の業界では何が起きているかを注視する必要があります。実は、異業種は経営モデルの宝庫なのです。しかし今、多くの人は業界内ベンチマークしかしていません。そうではなく、他の業界ではどのようなビジネスモデルで価値形成をしているのか、それを把握することが大切です」

王道で行くか、覇道を進むか

 続いて妹尾氏は、モデルが頻繁に変化している例としてメディアの変遷を取り上げた。もっとも先端的な分野であり、次々とイノベーションが起こっている典型例だという。

 「メディアの世界では10年ごとにモデルが変わっています。現在70歳代の人は、音楽をEPで聞いていました。しかし60歳代の人はそのメディアがLPに代わり、50歳代の人はカセットテープ、40歳代の人はCD、30歳代の人はMD、そして20歳代の人はiPodというようにめまぐるしく変化しているのです」

 EPがLPに代わることで量的拡大が図られ、それがカセットテープになることによって携帯化が実現、ウオークマンのような製品が生まれた。さらにそのカセットがCDになることで操作性が格段に向上。そして、MDになってウエアラブル可能となり、iPodによってマルチモード対応となった。常に最先端のITに移行することで、新たなビジネスモデル、価値形成モデルが誕生してきた。

 「ここで見たように、10年ごとに製品モデルが変わってきましたが、それより重要なのはコンセプトが変わり、価値形成が変わったということです。さらに現在は、iPodを見ても分かるように、ネットワークと結びついて相乗的な価値形成が起きています。そして価値の要諦は機器から顧客側へと移行しています」

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