日本と日本企業を元気づけるキーワード ――ワーク・ライフバランスとダイバーシティNTTDATA Innovation Conference 2011レポート(2/4 ページ)

» 2011年02月25日 15時00分 公開
[宍戸周夫,ITmedia]

ワーク・ライフバランスが企業と社会を変える

 その後、小室氏のテーマは日本の社会と企業の現状に移った。「日本の社会が抱える一番の問題は少子高齢化でしょう。それが労働人口の減少を招き、一方で年金の支給額が急カーブで上昇しています。将来、年金が大幅に減額される恐れも出てきており、行政は出生率の向上とともに、女性の継続就労が必要だと考えるようになりました。しかし、女性の労働力率と出生率の関係を見ると、日本はOECD加盟国の中で、女性労働力率も出生率も低い位置に留まっています。つまり、日本の女性は働けてもいなければ、子供を産んでもないという結果になっているのです」

 これまでは、女性が働くようになったから子供を産まなくなったと思われていた。しかし、そうではなかったのだ。それにも関わらず、日本は女性の労働力率を低減し、それによって出生率を上げるようと考えた。間違いだった。

他の国々はどうか。他の国は、女性が働けない、産めない状況をうち破るための環境整備を考えた。安心して預けて働ける保育所を増やした。企業には幼児支援制度の整備を義務づけ、男女とも早く帰って家事、育児に専念できるよう労働時間規制を行った。

 例えばフランスでは、週35時間しか働けない。しかし、フランスは日本の約1.3倍の労働生産性を生み出している。時間制約をつけた方が、労働生産性が高い。ワーク・ライフバランスの正当性が証明されている。

一方、企業はどのような問題を抱えているのだろうか。

 「企業はいわゆる2007年問題、団塊世代のいっせい退社によって人がごそっと辞め、一方で新人も入ってこないという状況になっています。そのため、中堅の人の仕事がどんどん増えています。それでは業績が上がるわけはありません。ある新聞社の調査によると、学生が就職活動で最も注目するのは仕事と生活を両立できる企業ということでした。そこで企業には、優秀な人材を確保するために自社のワーク・ライフバランスをつまびらかにすることが不可欠になっています。また、3年以内に離職した社員が上げた理由の上位に、長時間労働や自己研さんもできず先が見えない、モチベーションが維持できないなどがありました。そのため、ワーク・ライフバランスで、時間内で成果を上げることが大切になっているのです。経営自体にワーク・ライフバランスを取り入れるところが増えています」

 ワーク・ライフバランスは日本社会が抱える介護問題でも重要な役割を果たすという。団塊世代が退職しあと10年もすると、そのまま一気に75歳の要介護世代に入る。これは避けて通ることができない事実。そこで何が起きるか。いわゆる団塊ジュニア世代に親の介護という問題が降りかかるのだ。ある大手自動車メーカーでは、実際に社員の6分の1が親の介護を担わなければならなくなると予想している。

 「つまり、10年後は介護で残業できない人が急激に増え、介護休業を経ても働き続けられる組織作りが重要になるわけです。今からそれを前提とした組織作りをしなければなりません」ワーク・ライフバランスが必要なもう1つの理由だ。最後に小室氏は、企業の問題点を次のようにまとめた。

 「このまま行けば、ごく一部の社員しかモチベーションが持てない組織となり、人材力不足に陥ります。そして、生産性競争でも勝っていくことができなくなります。一方で、顧客は多様化しているにも関わらず、社内には多様な価値観が育たず、商品作り、サービス作りにおいてグローバル・マーケットに対応できなくなります。これをどう改善するか。企業がいかに同業他社に勝っていくかを考えたとき、ワーク・ライフバランスを避けて通ることはできません。今企業にはいろいろな問題が起きていますが、ワーク・ライフバランスやダイバーシティによって企業と社員がWin-Winの関係を生み出すことが求められています」

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