日本と日本企業を元気づけるキーワード ――ワーク・ライフバランスとダイバーシティNTTDATA Innovation Conference 2011レポート(1/4 ページ)

NTTデータが開催した「NTTDATA Innovation Conference 2011」では午前の基調講演に続き、午後には2つの特別対談が行われた。そのひとつが、NTTデータが取り組むダイバーシティをテーマにした「変える力を生み出す、ワークスタイルイノベーション」。ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長が、NTTデータの榎本隆副社長に聞く形で対談が進んだ。

» 2011年02月25日 15時00分 公開
[宍戸周夫,ITmedia]

負のスパイラルからいかに脱するか

 この特別対談ではまず、小室氏と榎本氏がそれぞれの立場からワーク・ライフバランス(仕事と生活の調和)およびダイバーシティ・マネジメント(多様性を競争優位に生かす制度)について問題提起を行った。

最初に登壇したのはワーク・ライフバランスの小室氏。話は、その社名にもなっているワーク・ライフバランスの紹介から始まった。日本はこの分野で大きく立ち後れているという指摘だ。

ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長

 「現在、月間60時間以上残業している人の割合が世界で一番高いのが日本です。ですから子供とも遊べない、独身の人はスポーツや自己研さんすらできない。OECDの調査でも、日本は最もワーク・ライフバランスへの意識が低い国に位置付けられています」

 日本人は仕事のことばかり考えている。その背景には、日本人の中に「長時間労働で勝ち抜いてきた」という意識があるからだという。そのため、今のグローバリゼーションの中では「さらに長時間労働をしなければ他の国に負けてしまう」となる。しかしその長時間労働が成果につながっているのか。それが小室氏の問題提起だ。

 「今、成果を表す指標として最も注目されているのが労働生産性です。これはその国が稼ぎ出した付加価値の全体額を働いている人の頭数で割った値、つまり一人当たりどのくらいの付加価値を生み出しているのかを表す数字です。この指標で見ると、日本はOECD加盟国30カ国中20位。しかも先進国の中では最下位になっています。つまり、日本は長時間労働をしているが、労働生産性は先進国中最も低い値になっているのです。残業時間はトップクラス、仕事の成果は最低クラスということになります」

 これが日本の現状である。社員は長時間労働で疲弊し、それに対して残業代を払い続ける企業の体力も疲弊するという、負のスパイラルに陥っている。昔は長時間労働で一定の成果を上げていたが、仕事のやり方がガラッと変わったにも関わらず、旧態依然のままただ働き続けているのが実態だ。

 昔、日本人の人件費は世界最低クラスだった。つまり、時間をかけてもコストは増えないから、時間さえかけてモノやサービスを作ればその分利益が伸びた。一方、人々もモノやサービスに飢えていたから、残業しても生産・納品すればシェアも顧客も獲得できた。

 しかし現在、日本の人件費は世界最高クラスに達し、モノもサービスも有り余っている。斬新な切り口を持った商品しか売れない。つまり、高付加価値商品を短時間で生み出さなければ利益が出ないのである。

 「そのためには当然、短時間で高付加価値商品のアイデアを出さなければなりません。発想豊かな社員が求められます。家事労働や地域ボランティアなどの体験によるアイデアが必要になります。それなのに、私生活は空っぽの人が会議に出て、何もアイデアがないまま会議がはてしなく長引き、なかなか帰れない。そのため、インプットもできないという状況になっているのです。この流れを逆回転するのがワーク・ライフバランスなのです」

 同社自身も全員残業中止の会社だという。創業当時社員は残業をしていたが、それぞれが自分の知識不足、スキル不足、外部の人脈不足などで残業をしていることに気づき始めた。そこで、早く仕事を終え、私生活を充実させる方向に舵を切った。それによって、生産性は上がった。創業時に比べると仕事は30倍となったが、残業をしないまま社員数は3倍に留まっているという。労働生産性が上がっている。

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