両者それぞれの問題提起に続き、最後は対談形式で今回のテーマを掘り下げるというシナリオである。まず小室氏が榎本氏に、ダイバーシティの観点からIT業界の特徴およびNTTデータの具体的な取り組みを聞いた。榎本氏の答えはIBMの"変節"を引き合いにしたものだった。
「1993年にIBMのCEOとなったルイス・ガースナーは、IBM再建のため『ハードウェアからサービス・カンパニーへ』と大きく舵を切りました。実際、2009年の実績を見ると、圧倒的にサービスの売上が大きくなっています。しかし利益では売上の4分の1にも満たないソフト部門が大きくなり、今はサービスよりソフトの方が多くなっています。つまりIBMは今、サービス・カンパニーを通り越してソフトウェア・カンパニーになっているのです。こうした流れは当社にも参考になります。当社の売上の多くを占めているSIは完全にコモディファイしています。労働集約型のビジネスをやっている限りは、当社の展望はありません」
これが、サービスやソフト事業にシフトするには、ダイバーシティによる人材の多様性が不可欠という同社のストーリーに結びつく。もうひとつの課題は、グローバル化への対応。それについて榎本氏はユニークな見方を示した。
「グローバル化は実はきわめて国内的な問題でもあります。当社でいえば国内3万人の雇用をどのように守っていくのかという問題になるわけです。例えば、IT業界の人件費を国別で比較すると、日本の人件費に比べ中国は8分の1、インドは9分の1、ベトナムは10分の1となります。日本人は、本当に付加価値の高い仕事に転換していかないと将来はないのです」この榎本氏の発言に対し、小室氏は次のようにコメントした。
「この人件費は非常にショッキングな数字で、こうした中で日本人は働いていかなければならないわけです。ちなみに、当社の社員の7割は女性で、その女性社員の多くは定時の6時に帰ります。しかし、短い時間でも成果を出すことができるのです」として小室氏は、自らの経験を引き合いに海外の女性の"強さ"を紹介した。
「私は大学時代に1年休学をして海外で放浪の旅をしていました。そこでお金がなくなり、住み込みでベビーシッターをしたことがあります。シングルマザーの女性でしたが、その人は会社に復帰した日に課長に昇進したのです。育児休暇の間にe-Learningで勉強をし、仕事に必要な資格を取っていたのですね。育児休暇というと日本では単なるブランクというイメージがありますが、その女性は『休業期間はブラッシュアップの時間』といっていました」
NTTデータでも、女性社員の継続雇用は大きなテーマのようだ。「当社では、女性社員が結婚して第一子を産むのが平均32〜35歳くらいですが、2009年度の結果を見ればその半数近くが離職しています。この山をいかに崩していくかがひとつのテーマです。その前にもひとつの山があり、女性社員は入社4〜5年に離職のピークを迎えます。現在、新卒採用の25%くらいは女性ですが、このように最初の3年くらいで辞められたら会社にとっても本人にとっても不幸です。そのため、キャリアモデルといいますか、先輩の女性社員が当社の中でどのように活躍しているのかを個別にガイダンスすることで定着率を上げています。これによって、10年前に比べれば離職率は着実に低下しています」
対談の最後のテーマは、マネジメントの意識改革について。これについては、小室氏が成果主義を掲げるマネジメントの意識の誤りを次のように指摘した。
「もうひとつ見落としてならないのは、マネジメントの評価に対する意識です。部下をどのように評価しているかと聞くと、成果主義だと答えるケースがほとんどですが、その成果主義の定義を聞くと『質×量』と答える人が多いのが実態です。これに続くのは、多くのプロジェクトを成功させた人とか、一番売上を上げた人というもの。しかしそれは間違いで、『時間当たりの生産性』を基軸にすべきです。日本は月末、年度末に締めていますから、このように期間で見ると、そこに残業時間や残業コストを全部投入しているわけです。つまり、時間やコストはいくらでも投入していいから、積み上げた成果はどれだけかとみているのです。これは成果主義ではなく、体力根性主義といわざるを得ません。つまり、体力のある人が高い評価を受けることになっているのです。そんな状況の中に、マネジメントは部下を知らず知らずに追い込んでいっているのです。本当に能力のある人ではなく、"体力命"の人が偉くなっていく。この評価制度を変えることで正しい人が評価され、長時間労働をする人は減っていくはずです。これをある会社でやったところ、上位20人のうち6割は女性でした。労働時間だけでなく、管理職の評価の方法まで変えていかなければならないのです」
IT産業にとっては人材がすべてであり、特にNTTデータのようなグローバル企業では性別、人種、文化、宗教が異なる人材をまとめて正当な成果を上げることが不可欠。ワーク・ライフバランス、ダイバーシティは企業戦略、成長戦略の重要な柱というのが二人の結論だった。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授