日本でも最近「ダイバーシティ」という言葉を耳にする機会が増えてきました。しかしながら、本質を理解している日本企業はまだまだ少ないようです。何故でしょうか?
最近、「ダイバーシティ・マネジメント」という言葉を耳にする機会が増えました。「ダイバーシティ」を直訳すると「多様性」という意味になりますが、「マネジメント」という単語が1つ増えることで、違った意味合いになります。実はこの言葉は、多くの日本企業では、まだまだ正確には理解されていないようです。
例えば、「ダイバーシティ・マネジメントとは、女性活用のことですよね。わが社では女性管理職の目標比率を管理職全体の25%に掲げています」などと、「多様性」を現象面の一部としてとらえ、数値目標を達成することが「ダイバーシティの取り組み」であると宣言している企業が多く、本質的に理解している企業は少ないと考えられます。
ダイバーシティ・マネジメントとは「企業組織における多様性を価値創造の源泉にするための経営の取組み」を指し、その要件として、(1)企業組織におけるさまざまな多様性を認知すること、(2)多様性を上手く活用することにより、直接的・間接的に企業の売り上げや発展に貢献すること、(3)その結果、多様性は企業競争力の源泉であると認知されること、の3つがそろうことで実現できるものと考えられます。
人材マネジメントの領域においては、一人一人の価値観や人生観を尊重しながら、個々人が発揮できる能力を、組織の成果に結び付けることによって組織の活性化につなげる施策を取り入れることが重要になります。 ダイバーシティ・マネジメントの理論では、この考え方を企業経営に導入し、社員一人一人の顕在化した能力を生かす多様性を備えた施策、それを発揮できる多様な場(機会)を提供することが、企業全体としてこれまでにない価値の創造を継続的に生み出すと考えられています。
しかし、ダイバーシティ・マネジメント活動を前述のような目的で行っている日本企業は少ないのが実情です。なぜでしょうか。それをひも解くために、まずは日本企業の人事部門がこれまでどのような目的でダイバーシティ・マネジメントに取り組んできたのか、その変遷をたどってみましょう。
日本企業の人事部門でダイバーシティ・マネジメントが大きな課題として取り上げられ始めたのは、1985年に改正された「男女雇用機会均等法施行」の後からと言われています。組織内の女性労働者の処遇改善や福利厚生の充実を通して、組織の中の性別による働き方(ワークスタイル)の多様性が認知され、上手く活用するための諸制度が整備され始めました。例えば、日本IBMの育児休暇制度導入(1987年)や、係長以上の女性役職者を1年で20%増やした西武百貨店(1989年)などが先進的な企業と言えるでしょう。もちろん当初の多くの企業姿勢は極めて受身的であり、ダイバーシティの概念がコンプライアンス上の要請を満たすためのものであったことは皆さんもご存じの通りです。
「ダイバーシティ」という単語が本格的に日本に上陸し始めたのは、1990年代に入ってからです。バブル経済の絶頂期に多くの外資系企業が日本でオフィスを構え、日本企業も積極的な海外投資を行っていました。その過程において、特に米国企業の「ダイバーシティ・マネジメント:チームや組織の成果向上につながる多様性のマネジメント」の考え方が、優秀な人材確保のために日本企業に積極的に輸入されました。
その後、その考え方は単なるリクルーティング目的の枕言葉から次第に変化しました。特に1996年に制定されたISO14001順守の要件であるCSR(企業の社会的責任)報告書の主要項目として、職場における基本的人権の尊重、女性活用、障害者雇用など、特定の社員の処遇に対する取り組みについて、積極的な情報公開が求められたことが大きいです。以後、日本企業におけるダイバーシティはCSRを満足させるための諸制度の整備を中心とした社内インフラ整備が活動の主たる目的であったといえます。
しかしこの取組みも2000年代に入ってからは一種の“踊り場“にあると言えるでしょう。特定の社員に対する関連法規の改定に伴う諸制度の整備は、ほぼ出尽くした感があり、多くの企業にとって「さて、次のダイバーシティ・マネジメントはどうしたものか」と目標を見出せないでいるのが現状ではないでしょうか。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授