ニッポンの電子化は無駄ばかり、真の「IT化」を――イーコーポレーションドットジェーピー廉社長(2/3 ページ)

» 2012年08月22日 08時00分 公開
[聞き手:浅井英二、文:山田久美,ITmedia]

電子カルテは医師の負担を増やすだけ?

 例えば、医療分野におけるIT化としては、「電子カルテ」が挙げられる。

 日本で、電子カルテが登場したのは1995年のこと。1999年に法律で正式に認められたのを機に、さまざまなITベンダーが電子カルテの販売を開始した。しかしながら、17年経った今でも広く普及するには至っていない。特に政府は2001年に、「医療IT化に関するグランドデザイン」として「2006年をめどに診療所の約6割での普及を目指す」という目標を掲げたが、現在の診療所での普及率は2割強に過ぎない。

 また、導入が急速に進められている大規模病院でも、電子カルテの導入によって医療サービスの質が向上したかといえば、必ずしもそうではない。それどころか、逆に電子カルテの導入は病院経営を圧迫するとも言われている。また、医師からは、「PCを操作しながら、診療に専念するのは困難だ」との声も上がっている。

 このような不満の声が多い理由として、廉氏は次の2点を挙げる。

まず、電子カルテのコストが高すぎること、そして、現在の日本の電子カルテを含めた医療のIT化は、戦略的な病院経営を支えるための情報化というより、単純に紙のカルテを電子化するところに留まっているように感じるということだ。

 また、いったん電子カルテを導入した場合、例えばシステムの老朽化や契約の期限切れに伴い既存ベンダーからの価格やサービスに不満を感じ、他のITベンダーのシステムに変更しようと思っても、「他社製品に載せ換える場合、データ移行の責任は持てません」と言われてしまうと勇気をもって挑戦するのは難しい。病院は同じITベンダーと契約を更新せざるを得ず、その結果、競争のない世界になり高コストになってしまうのだという。

 「電子カルテは、MRIやCT同様、診療行為に利用されるいわゆる医療機器の一部であり、従来であれば、医療の専門家すなわち、医師、看護師、技師等が主導的にシステム設計に参加し構築すべきである。ところが、日本の場合ITベンダーが中心になり、お客さまの要望を聞いた上で、電子カルテをコンピュータシステムの側面から開発したように見受けられる。なぜならば、大手ベンダーの電子カルテシステム開発部門に医師免許や看護師免許を持ち、病院現場での経験がある人が在職していると言う話は聞いたことがない。そうなるとシステムの開発の観点は医療品質の向上より、パッケージシステムとしての移植性やカスタマイズの容易性などの観点が重要になり、結果的に医療行為の高度化のためというよりは、システム的に医療行為を支えるものになってしまう。この2つは似ているようで全く違う観点なのである。」(廉氏)

 本来であれば、電子カルテはある患者の症状を入力すると、これまでに蓄積された病気の症状に関するさまざまなデータを基に、「可能性のある病名が提示される」「誤診に関する過去の事例など注意すべき事項が表示される」「患者が他の病院で処方された薬が表示される」など、医師の負担を軽減し、患者により質の高い医療サービスを提供するための支援ツールとして機能すべきところだ。しかし、単なるデータ入力ツールに留まっているという。

 加えて、病院間や薬局間で電子カルテの情報共有ができていない。そのため、必要な情報をいちいちプリントアウトして、別の病院や薬局に提示しなければならないなど、医師も患者も共にメリットがある真のITサービスを提供できていな。

 それに対し韓国では、大手病院を中心とする多数の提携病院間で、全国的なレベルで、患者の診療データの情報共有が、安全かつシームレスに行われている。そのため病院や診療が終われば患者は医師に処方箋を発行してもらうことなく、診療費収納端末で薬を受け取る薬局を選ぶことができ、選んだ薬局ですぐに薬を受け取ることができるという。

 もちろん、医療保険の請求はほとんどがオンラインで行われており、わざわざ紙の請求書を電子化する必要もないし、さらに請求レセプトの審査も専門的に開発されたシステムにより自動判定され、問題のない請求に関しては、迅速に医療機関への保険料の振り込みが行われるため医療機関も大変助かる仕組みを実現している

 「しかし、コンピュータ化されても不正請求の問題がないわけではない。先日の韓国の新聞に、医療保険の不正請求をした病院と薬局の名前を韓国の厚生省のホームページに今後半年間にわたり公開する、という記事が載っていた。これは、各病院が入力した電子カルテや医療請求の内容が、全て国が運営するクラウド上で管理されているからできることである。一方、日本では、病院や薬局が同じデータをそれぞれ入力し、独自に管理しており、健康保険を管理する国民健康保険団体連合会では、年間数千万円もの税金をかけて、病院や薬局から上がってきた紙の伝票を基にデータ入力をしている。もし、共通のプラットフォームがあれば、このような入力作業の重複による税金の無駄遣いはなくなるし、不正請求も防げるようになる」と廉氏。

保険福祉部のホームページ

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