「ユーザー視点」を追求してたどり着いたITの基盤と組織の改革「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(2/2 ページ)

» 2013年06月05日 08時00分 公開
[聞き手:重富俊二(ガートナー ジャパン)、文:大井明子,ITmedia]
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「情報システム部の存在意義」とは

 ――CADセンターのBPOや標準化の経験が今のシステム改革に大きく生きているようだ。

ミサワホームの宮本氏(左)、ガートナーの重富氏

 とはいえ実は、CADセンターにいた時代は情報システム部門と非常に仲が悪かった(笑)。

 当時のシステム部門はオフショアBPOには消極的で、やれセキュリティがどうの、ソフトウェアのライセンスがこうのと全然協力してくれなかった。仕方がないので勝手にやることにして、オフィスの片隅に50台のパソコンを並べて基幹システムに接続し、そのパソコンを1台づつ中国のパソコンとVPNでリモートデスクトップ接続して使っていた。専用線の契約もないし、資産計上すべき高価な機器も必要ないので、システム部門の知らないところで何とかやれてしまった。

 ――「情報システム部の存在意義が問われる時代だ」という思いは、こうした経験から?

 その通りだ。昔と違い、情報システム部門の手を借りなくても、自分たちで責任を負う覚悟さえあればユーザー部門側で何でもできてしまうことを、身を持って実感した。

 また、情報システム部門を通そうとすると、時間がかかるうえに細かなことまで決めてからでないと話が進まず、「とりあえずやってみる」ことができない。それではビジネスのスピード感を損なう。当時は「要件定義」という言葉も大嫌いだった。

 情報システム部門は、ユーザーに負けないスピード感をもち、かつ、ビジネス上の付加価値が提供できる組織にならなければならないと強く感じるに至った。

 ――こうした考え方が、積極的なクラウド活用などに反映されている。

 ユーザー部門に詳細な仕様と確固たるスケジュールを求め、それをユーザー志向と称してそのままシステム化するだけでは、絶対に駄目だ。仕様もスケジュールも何とでも対応するから、安心して試行錯誤して、もっと稼いでいこう、と言えるようになりたい。クラウドはそのための強力な武器となりうる。

このタイミングを逃してあと5年も我慢はしたくない

 ――人事、会計など基幹系システムのクラウド化やグループウェアとしてのGoogleの導入など、大胆な取り組みにより先進的な情報システムを実現しようとしている。

 合理的な選択をしているだけ。奇をてらったわけではない。

 Googleは、昨年2012年1月に本社で導入し、以降販売会社にも広げて現在は約1万人のうち9割の移行が済んだ。あと1社で完了する。

 本当はもう1年、検討の時間が欲しかった。結果的に導入してよかったとは思うが、正直まだちょっと早いという感じもあった。しかし、その「ちょっと」のためにこのタイミングを逃し、また自社運用のシステムを更新してしまうと、次の大型システム投資を行うには5年先まで待たなくてはならなくなる。その間、他社が新しいテクノロジーを採用していくのを、指をくわえて見ていなくてはならない。その恐怖感が大きかった。クラウドなら、その都度判断して最新技術を取り入れられる。柔軟な環境を確保したかった。

 ――SFA(営業支援システム)もクラウドのサービスを導入したと聞いたが。

 昔の住宅販売は「スーパー営業マン」たちが夜討ち朝駆けしていたが、今は顧客ニーズも環境も様変わりし「チーム営業」の時代だ。しかし、そのための仕組み作りが追いついていなかった。販売会社それぞれでシステムを導入するのはもちろん効率がよくない。本社が音頭をとって推進することにした。

 従来型の自社運用のシステム構築では、最初の設計段階で詳細な要件、システムの規模を決める必要がある。クラウドであれば柔軟な対応ができ、途中で使い方を変えたり、計画よりも早いスピードでユーザー数を増やしていくこともできる。

 ――ビジネスの変化に対応できる柔軟性を確保することが最重要であると。

 そうありたい。今後日本の住宅業界がどう変化するか予測するのは難しい。変化が起こったとき、システムに柔軟性がないがために足をひっぱるようなことになってはならない。むしろ、ITの側からイノベーションを提案できるくらいにならなくては。

対談を終えて

 宮本氏のIT部門の存在意義に対する危機感は強烈だ。その背景には、会社が苦しかった時代の苦労や、情報システム部門と仲が悪かった(笑)ユーザー部門時代の経験があるのかもしれない。

 しかし、宮本氏に妙な"力み"は無い。極めて自然体で、論理的なのだ。新しいテクノロジーの使い方も、現在と将来のビジネスにとって何が必要で、何をIT部門として行わなければならないのかの視点で貫かれている。危機感をスローガンとしてではなく、具体的な施策として実行していく「クール」なエネルギーを感じた対談であった。

プロフィール

重富 俊二 (Shunji Shigetomi)

ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー

2011年 12月ガートナー ジャパン入社。CIO、IT責任者向けメンバーシップ事業「エグゼクティブ プログラム(EXP)」の統括責任者を務める。EXPでは、CIOがより効果的に情報システム部門を統率し、戦略的にITを活用するための情報提供、アドバイスやCIO同士での交流の場を提供している。

ガートナー ジャパン入社以前は、1978年 藤沢薬品工業入社。同社にて、経理部、経営企画部等を経て、2003年にIT企画部長。2005年アステラス製薬発足時にはシステム統合を統括し、情報システム本部・企画部長。2007年 組織改変により社長直轄組織であるコーポレートIT部長に就任した。

早稲田大学工学修士(経営工学)卒業


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