多様性と柔軟性。それこそが企業の強さ、ITのあるべき姿「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(1/2 ページ)

合併を繰り返しながら成長し続けてきた製薬会社、サノフィ・アベンティス。そんな同社におけるIT部門の役割とは?

» 2012年08月08日 08時00分 公開
[聞き手:重富俊二(ガートナー ジャパン)、文:山田久美,ITmedia]

 フランス・パリに本社を置く製薬会社、サノフィ・アベンティス。世界に10万人超の社員を擁し、5大陸100カ国以上で事業を展開しているグローバル企業だ。2006年1月に設立された日本法人サノフィ・アベンティス社の歴史は1973年にさかのぼる。以来、日本で、約40年間にわたり延べ30社以上の企業が合併・統合し、現在に至る。そんな同社の現在の経営課題と、ITの特徴、ITの果たす役割について、執行役員で情報システム本部の松原一巳本部長に話を聞いた。

ビジネス部門時代の経験はIT部門に携わる上で極めて重要

 ――サノフィ・アベンティス社は多くの合併・統合を行い今に至っているが、どのような企業文化が形成されたのか、その特徴を先ず伺いたい。

サノフィ・アベンティス 執行役員 情報システム本部 松原一巳本部長

  基本的にフランス、ドイツ、アメリカの会社が母体であるため、良くも悪くも、複数の国の異なった文化的背景を併せ持つ、複雑な企業文化を持っている。

 会社全体としては、従業員10万人を超す規模であり、世界のトップ3に入っている。しかし、米国やヨーロッパの他の製薬会社のように、徹底したグローバルへの一極集中戦略を推し進めているのではない。日本の企業を含め、製薬業界が、グローバル展開へ向かう中、われわれはローカルとグローバルの中間を取った、ヨーロッパ・アメリカ・アジアといったリージョンをベースにした戦略を展開している。「Work For Japan」という概念の元に 日本のビジネスの特殊性を十分に考慮した上で、グローバル企業としての合理性を追求していく、それがわれわれの大きな特徴と言えるだろう。

 サノフィ社の創業者でもある前会長は、「No Global Patient」、企業や製品はグローバルであっても、お客さまはやはり日本のローカルな患者さんであり、彼らに合わせて医薬品を提供していくべきだという持論を持っていた。

 また、需要は少ないものの、医学的に意義のある難病治療薬などにも積極的に取り組んでいる点も特徴だ。欧州の場合、CSR(社会的責任)に対しては、第3者機関による評価などを含め企業価値の重要な要素とされており、株価にも反映される。そのため、CSRに対する組織体制やビジネスモデルの確立といった点にも留意し経営課題として取り上げている。

さらに加えて、医療用薬品からジェネリック医薬品(後発医薬品)、OTC(市販薬)、動物薬までとヘルスケアー全般への幅広い事業の多角化も近年の特徴と言えるだろう。

 ――世界の医薬品企業の中でも幅広い事業展開をされているが、松原さんはどのような経験をされ、何が今に役立っていると思うか?

 わたし自身は1976年に大学卒業後、現在の母体のひとつで、当時ドイツに本社を置くヘキスト社に入社した。最初は営業部門に配属になり、業務管理や営業施策立案に関わった。その後、米国のMBAに2年間、留学させてもらった。帰国後の1994年、医薬品事業部内に初めて設置されたIT部門の責任者として配属されたのをきっかけに、以来18年間にわたり、IT分野に関わってきた。

 それ以前は、複数の事業部に対して、電算部門がシェアードサービスとしてITに関するサービスを提供していた。 しかし、サービスの中身がブラックボックス化し、ITコストの妥当性も分からなくなっていた。 また 必ずしも、医薬品事業部が求めるシステムになっていないということから、自分達の事業部内に特化した、より専門性の高いIT部門を持とうということになった。

ちょうどそのときSAPのプロジェクトが進行していて、IT部門とユーザー部門の中間という立場から、プロジェクトに参画することになったのも良い経験になった。

 入社後36年間のうち、半分を営業・経営企画部門、もう半分をIT部門に従事してきたわけだが、営業・経営企画部門時代の経験は、IT部門に携わる上で大変役に立っている。この時期この会社、この業界にとって何が重要かといったビジネスの勘所は、営業部門時代に養われた。時代の変化に伴い、求められるITは変わる。しかしビジネスの勘所がないと、その時代の最適なITは分からない

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