80億人市場に対する意識転換の必要性――新・新興国の実態と日本企業のチャンス視点(2/3 ページ)

» 2013年09月09日 08時00分 公開
[長島 聡、奥村 亜紀(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

誤解(2)新興国ではブランドを重視しない

図2:日本の一人当たりGDP推移における新興国各国の現状値(2011年)

 次にブランド嗜好に関する誤解があげられる。新興国消費者にとって最も重要なのは低価格だと考えていないだろうか。もちろん手に届く価格であることは重要だが、その一方で新興国の消費者は非常にブランドセンシティブだ。高価な買い物になるほど、多少高くとも安心できるブランドを好む傾向がある。家電や自動車、携帯などは、一世一代の買い物である。それゆえに長く使える品質であるか、見栄えのするイメージがあるかなど、ブランドを重視するのである。

 南アフリカで行われた調査では、自動車を複数台所有する白人層が中国製や韓国製などの低価格のブランドを好むのに対し、黒人層は多少割高であってもVWやトヨタなど欧米や日本のブランドを好むことが分かった。壊れやすい中国車を購入するのであれば、将来のメンテナンスコストを考えると、中古でも日本車を購入するほうが安心できる。初めての自動車の購入なので、友達に自慢できる欧米の自動車が欲しいといった具合だ。後に詳しく取上げるが、現代自動車ではブランド力をあげる取組を新興国で積極的に展開している

誤解(3)新興国では最先端の技術は強みにならない

図3:携帯電話の普及率と一人当たりGDPの各国比較(2010年)

 3つめは、テクノロジーに対する誤解である。2011年の「アラブの春」では、SNSを通じた市民の情報交換が話題になった。2012の3月にはFacebookの利用者数が全世界で9億人を突破した。新興国の消費者は、パソコンよりもノートパソコン、ノートパソコンよりもスマートフォンといったように、一足飛びに最先端の技術を備えた製品を購入する傾向がある。携帯電話の普及率は、先進国において90%を超え横ばいなのに対し、新興国全体では過去年4年で39%(2007年)から78%(2011年)に急成長を遂げている。固定電話のインフラが整うのを持つことなく携帯電話の普及が進んだため、普及率が100%を超える国々(中東、東欧)まで出てきている。

 例えばアフリカの農民は、携帯電話を使ってGoogleが提供するSNSサービスで気象情報や野菜の市場価格などの情報収集を行い、ボーダフォンが提供する小口送金サービス(後章参照)でビジネスを行う。ノキアはアフリカ独自のニーズを踏まえ、ローエンドの携帯に、停電のための懐中電灯機能と家族で携帯を共有するための複数アドレス帳機能をとりつけた。どんな荒野においても電源コンセントがあり、無線鉄塔が次々と建設されている。技術を伴わない低価格だけが売りの製品で参入しようとすると販売機会を逃してしまう恐れすらある。

誤解(4)新興国の消費者はサービスよりもモノを重視する

各エリアのGDPに占めるサービス産業構成比推移(1970年〜2010年)

 これまで新興国というと、低賃金を活かして工場を誘致する製造業のための市場というイメージがあったかもしれない。日本が辿ってきたのと同じように、新興国でサービス産業が立ち上がるのはまだ先と考えるかもしれない。しかし、われわれの想像を超えるレベルで、新興国市場におけるサービス化は進展している。消費者はサービスにこそ、支出を惜しまない。

 例えば、自動車故障の多いインドネシアにおいては、3年間のメーカー保証に加え、多くのディーラーで5年間の緊急ロードサービスが付加され販売されている。ザンビアのパソコンショップでは、出張メンテナンスサービスもセットで販売されている。サポートサービスによって売上が1割増加したという例もある。公文式はアフリカ、アジアなど全世界47カ国に学習塾を展開し、今年3月時点で学習者数443万人を突破した。

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