クリエーター生態系サイクルを仕組みにする(中編)気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

» 2014年01月28日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:小川晶子,ITmedia]
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部署の垣根を作らず、それぞれの役割を越えて生物的につながる仕組み作り

柳澤:普通は、プロジェクトリーダーに権限委譲して、その人が全予算を管理して、コミットするというような体制で成り立っていると思います。つまり責任の所在をはっきりさせるということですね。でも、カヤックではそういうやり方はしておらず、もっと生物的な仕組みにしています。

 どういうことかというと、体って、それぞれの臓器やいろいろな仕組みが影響しあって、つながってできています。ここだけ治せば体が治るという簡単な話ではありません。組織も同じです。それぞれが影響しあって成立しています。だから責任の所在をはっきりさせない。あるいは会社でおきたことはすべて全社員が自分の責任だと思う。そういう方がいいのだろうと思います。それぞれの役割が全部有機的につながっているイメージです。よりアメーバ的な感じです。

中土井:それぞれの役割が有機的につながっている状態とは、組織の仕組みでいうと、具体的にどのようなことですか?

佐藤:普通は事業単位で人を分けると思いますが、弊社の場合は、事業単位の枠がありません。昨日までゲームを作っていたと思ったら、明日からは広告キャンペーンのコンテンツを作っているかもしれない。さらには経理をやっているかもしれない。そのくらい自由度があっていいと思っています。

 今は、事業別に分けずに、カヤックの中を20チームくらいに分けて、各チームが出す企画に対して人をつけるという方法を取っています。週2回、それぞれのチームが考えたことを共有する場があって、上がってきたものに対して、それはカヤックらしいとか、収益上やった方がいいというような判断をして、やるかやらないかを会議で決めます。やると決まったら、案件が流れていき、チームが編成されてものづくりが行われる。そのサイクルがぐるぐる回っています。

柳澤代表(右)と聞き手の中土井氏(左)

中土井:話を聞いていて、何となく見えてきたのは、組織を機械論的なものととらえるか、生命体としての組織ととらえるかという2つの見方があるということです。

 機械論的な組織だととらえると、職務分掌を明確にして、細かく役割分担していき、適材適所を実現するためのマッチングをしようとすると思います。それに対して、生命体としての組織でとらえると、種から芽生えてきたものに必要な栄養をどうやって集めるかということが重要です。カヤックは、単純に役割で分けるのではなく、それぞれの人の強みで補い合えるような仕組みを作っているんだなと感じました。

クリエーターに求めるものは、意識、スキル、人格を含めた「変態度」

中土井:カヤックのような環境にいると、クリエーターは自分のやりたいことや強みを明確にする必要が出てくると思います。クリエーターにはどのようなことを求めていますか?

佐藤:変態度を重視していますね。変態度というのは、変われる度合いという意味です。事業もチームもころころ変わっていくので、どんな事業でも面白いと思えるとか、意識やスキル、人格も含めて、適応していける力を重要視しています。クリエーターのキャリアは、どんな仕事、制作に出会えるかで広がっていきます。自分はこれしかできないという枠を作らず、何にでも挑戦していく。そういう人の方が可能性が広がっていきます。

柳澤:半年に一度、変態度をみんなで測定し合う変態診断があります。組織の中で変われていない人は一度退室した方がいいのではないかという、離職率を上げる仕組みにもなっています。変態度が低いというのは、新人でもリーダーでも生態系の中では壊死していることを意味します。

中土井:「変態度」に、カヤックさんの本質があるような気がしました。ユニークで面白くて、好きなことをみんながやっていて、どうやってビジネスを成り立たせているのかというのは多くの人が不思議に思うことだと思います。その秘密も「変態度」にあるのですね。

柳澤:ただ、市場を見誤らないで参入していくことが重要です。数年前、これからフラッシュが伸びるから、フラッシュに力入れていくと決めたら、みんながフラッシュの技術を学んで制作ができるようになりました。次はアプリだと言ったら、みんな技術を学んで、iPhoneとアンドロイドのアプリを作れるようになりました。今度はゲームだと言ったら、ユニティというゲームエンジンの技術を全員がマスターしました。ここだと決めたところに全員が変わっていけるので、成り立っています。

佐藤:今まで話してきたことは、市場流動性があって技術の流れも早い事業をしている組織の作り方だと思うんです。明日には何をやっているか分からないくらいの流れの中にいると、組織としての基礎体力を高めて、生き残っていかなければなりません。

中土井:変態度測定と同じように、評価についてもお互いに評価し合う仕組みなのですか?

柳澤:そうです。一緒に仕事した人たちが全員で評価し合って、ランキングをつけていく方法です。そのランキングが報酬と連動しています。より生物っぽくて、ネット的で、公平な方法だと思います。

中土井:次はここに行こうと決めたところに、社員が自らを変態させていかなければならない。常に変わり続けるためには、自由と混沌がある環境が前提になってくる。そういう自由と混沌のある環境をマネジメントの仕組みで支えています。

 ふと思ったのですが、柳澤さんから見たら混沌でも、社員の皆さんから見たら混乱だと感じてしまうことはないのでしょうか。

柳澤:それはありますね(笑)。そもそも例えば、カヤックは代表取締役が3人いますから、それぞれ違うことを社員に言ったりします。どの人の言うことを聞けばいいんですかって思いますよね。そこで自分がどれを選択するのかが重要で、それぞれが違うこといっているからけしからんって人には、やりにくいと思います。

中土井:自律性がものすごく求められる会社なんですね。

柳澤:そうですね、ものすごく自律性があるか、あるいは、自分がまったくなくて、完璧に誰かのいうとおりに乗っかれる人かどちらかが楽しめるんだと思います。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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