実は、私たちも、ITやデジタルテクノロジを経営トップやビジネスのトップが理解できているとは思っていない。では、知らないままでよいのかというと、先に挙げた書店やフイルム会社のようになるのを防ぐために、更に前向きに、変化に対応して、今も絶好調のフイルム会社のようになるために「知るべき」「理解すべき」だと考えている。
しかし、経営トップや、ビジネスのトップラインは、顧客のことや、新製品のことや、株主のことなど、目先の考えなければならないことが山盛り過ぎて、デジタルテクノロジについて、情報収集をしたり考えたりする時間がない。今までも、それを理由にITを優先事項にはしてくれなかったはずだ。そんな彼らに、正しい危機感を持ってもらうために訴えるのがCIOの仕事ではないだろうか。
先に「ITを理解してくれない」と愚痴をこぼすCIOが存在することを記したが、そのような場合には、ITの存在価値を、ビジネスの言葉で説明するように勧めている。では、デジタルではどうなるのか。デジタルの場合は、正しい危機感を持ってもらえるように訴え、そして、ビジネス戦略にそれらを書き記してもらえるように影響させなければならない。今までのITとデジタルテクノロジとの違いは、導入が遅れたり、他業種の参入を許したりすると、取り返しがつかないことになる可能性が高いのだ。
ガートナー リサーチ部門でフェローを務めるデーブ・アロンは、「(デジタルテクノロジに対して)何もしないことにより、企業活動を危険な状態にさらしてしまうリスクが時々刻々と高まっている」と話すが、この真意をどうか理解してほしい。
セミナーや研修と言えば、自らをすごろくでいえば「あがり」の位置にあると思っているCIOには、関係ないと考えられがちだ。配下の者が、自社に関係のある情報をCIOに持って行けば、それで十分に事足りていると考えられがちではないだろうか。本当にそうだろうか。自身の肌感覚で、時代の変化を感じてほしい。
アメリカで自動車会社が集まる都市と言えば、デトロイトだ。このことに、積極的に文句を言う人はいない。しかし、かのテスラモーターは、シリコンバレーに会社がある。シリコンバレーといえば、IT業界では知らぬ人がいないITの産業集積地だ。そこにテスラモーターがある意味を、現地に出向いて、肌感覚で理解できている自動車に携わる企業のCIOが何人いるだろうか。
シリコンバレーのすぐ近隣であるサンフランシスコには、デジタルテクノロジやそれらのテクノロジを駆使して新たなビジネスを始めようとする若者たちが、オフィスを構える街として変貌しようとしている。シリコンバレーにオフィスのあるIT企業に勤める若者の多くがサンフランシスコに居を構えているという実態を目で見て感じるべきではないだろうか。ITの、いや、いまとなってはデジタルテクノロジの産業集積地に足を踏み入れてみれば、日本では感じることのできない「風」を肌身で感じられることだろう。
行動するCIOといえば、火を吹いているプロジェクトに付きっきりになったり、支出を削減するために、自らがベンダー交渉に出向いたりするイメージがあった。しかし、前出のように、CIOの行動パターンは大きく変わる。名CIOは、予算削減が上手なのではなく、デジタル世界における自社ビジネスの成長を描けることが第一条件になる。そのために行動と意思決定をするのがCIOの役割となるのである。
2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授