ナインシグマは、技術ニーズと世界中の優れた技術屋のアイデアをつなぐ企業である。国内でも700件以上、全世界では4000件以上のマッチング実績がある。ナインシグマの事例から、オープンイノベーションの成功の鍵を学ぶ。
エグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム(ELForum)「第45回 インタラクティブミーティング」が「オープンイノベーション戦略」をテーマに開催された。ナインシグマ・ジャパン 代表取締役社長である諏訪暁彦氏が登場し、「国内外の事例にみるオープンイノベーション成功の鍵」について講演した。
ある化粧品メーカーでは男性用のスプレーを、ポケットに入れて持ち運べるように小型化したが、スプレーガスがすぐになくなってしまったり、詰まりやすくなるという課題を抱えていて、この課題を解決できないかという相談がナインシグマに寄せられた。
ナインシグマが、異業種の技術であるインクジェットプリンタのヘッドの技術を改良する方法を見つけ出したことにより、技術的な課題が解決できるにとどまらず、新しい噴霧感が斬新なブランドイメージとマッチしたため、このスプレーはヒット商品となった。また、ある飲料メーカーでは、ペットボトルの殺菌にエネルギーと時間がかかっていたが、瞬時に殺菌成分を分解する技術によるコスト削減が実現した。
「2つのオープンイノベーションの事例は、それぞれタイプが違っている。男性用スプレーの場合、これまでに把握している以外の役に立つ“何か”が必要だったが、世の中にある膨大な情報の中から“何か”を目利きして見つけ出すことが求められた。一方、飲料メーカーの場合は、逆にかなり具体的な要件に適応できる技術が求められた。求めるものが広すぎたり、ピンポイント過ぎると、自社のネットワークではなかなか見つからない。そういった場合、ナインシグマのような世界中の技術者のネットワークを持っている組織の出番となる」(諏訪氏)
オープンイノベーションは、既存の企業連携、産官学連携とは別のものである。これまで企業では、目標に対して努力すればある程度達成することができた。しかしグローバル競争が激しい現在、顧客の要求も多様化、複雑化、高度化の一途をたどり、これまで以上に短期間で目標を達成しなければならなくなっている。目標とできることのギャップが広がり続けている。
さらに最近では、これまで最優先で日本に入ってきていたアイデアや技術の情報が先に海外企業に提供されるようになってきた。また、優れた日本の研究者の海外への流出にも歯止めがかかっていない。そのため日本からは市場が見えにくくなり、ターゲットが絞りにくくなっている上に、目標達成力も下がり続けている。ギャップを埋めるオープンイノベーションの必要性はこれまで以上に増している。
「現在設定している目標も、今できると思っている技術力は、実は自社だけでなく、今付き合っているサプライヤーや大学の先生の技術力も織り込み済みである。そのため、社外であっても同じ相手にいくら要求しても、目標の精度も、技術力も高まっていかない。オープンイノベーションは、目標の精度を高めてくれたり、逆をより大きく埋めることのできる技術やアイデアを持った、新しいパートナーを見つけて、彼らと連携して初めて意味がある。そのため、従来からの企業連携や産学連携をオープンイノベーションと呼び変えても全く意味がない」(諏訪氏)
オープンイノベーションには、メリットと注意点がある。ギャップを大きく埋めることができる相手を見つけても、そこからさらに改良を加えることが重要になる。これにはメリットと留意すべき点がある。外部の情報を取り込んだあとは、自社内で自社の製品開発を進めるため、技術力の強化になる、というのがメリットだ。
「オープンイノベーションとアウトソーシングを同じものと考えている企業は多い。しかし、アウトソーシングは技術流出の側面もあり、技術が空洞化してしまう恐れがある。一方、オープンイノベーションは、ギャップを埋める取り組みなので、外から中への技術の流入である」(諏訪氏)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授