有効な技術やアイデアを外に求めることがオープンイノベーション成功の鍵(2/2 ページ)

» 2015年10月22日 08時00分 公開
[山下竜大ITmedia]
前のページへ 1|2       

 一方、留意すべき点は、オープンイノベーションも組織間のアライアンスなので、コミュニケーションや契約などの手間とコストがかかることである。そのため、あまり重要ではないテーマで実施すると、手間に見合わなくなり、途中で投げ出してしまうリスクが大きい。優先度の高い重要な案件に絞り、外部のネットワークをフルに活用して、ギャップを大きく埋め得る技術を見つけて取り込み、自社製品を改良することが重要になる。

 新規事業でオープンイノベーションを活用したいという相談も多い。新規事業においてオープンイノベーションは2つの活用方法がある。1つは自社のコア技術を柱に新規事業を築き、不足する部分をオープンイノベーションで補う活用方法である。

 もう1つは、まったく新しい事業の立ち上げにおけるコアの強みの共同開発である。自社で一から新しいコアとなる強みを築くのは、どうしても時間がかかってしまう。しかし、自社にとっては初めての分野でも、世の中にはすでにその分野で長年取り組んでいる組織や専門家が数多く存在している。こうした組織や専門家のノウハウを活用した方が、より短期間で目指す新規事業を立ち上げることができる。

 「欧米と日本の企業の期待するオープンイノベーションには違いがある」と諏訪氏は言う。日本の企業は、次に何をするか(What)を見極める手段としてオープンイノベーションに期待する企業が多い。一方、欧米の企業は、何をすべきかは明確だが実行力が不足するため、どうすればできるか(How)を求める傾向にある。Whatを求めるオープンイノベーションももちろん有効ではあるが、日本企業の皆さまに気づいてほしいのは、Howを求める課題解決型のオープンイノベーションの成功体験は、柔軟な「次に何をするか(What)」の発想にも結び付くという点である。

 例えば、GEがオープンイノベーションに本気で取り組み始めたのはここ数年である。最初の大きな成功体験の一つが、航空機データの解析アルゴリズムで、自社戦略のPRも兼ねて実施したのだが、自社の研究者が開発したアルゴリズムをはるかに上回るアルゴリズムを、航空業界の専門家ではない研究者から得ることができた。

 「この成功体験がきっかけで、外部の専門家の知の活用は有効、との認識が広がった。航空機の軽量化や病院の待ち時間の短縮など、これまでにない柔軟な新しいビジネスアイデアをオープンイノベーションを活用して進める動きが活発になった」(諏訪氏)

オープンイノベーションで効果を上げるには

 目標と自社でできることのギャップを埋める手段として、オープンイノベーションの活用は広まっている。ギャップを埋める上で重要なポイントは2つ。社外であっても、現在付き合っているサプライヤーや大学などの組織の能力はすでに織り込み済みの上でギャップが生じているので、彼らと付き合い続けてもギャップはこれ以上埋まらない。

 ギャップを埋めうる新しい技術やスキルを持った組織を新たに見出す必要がある。また、成功率を高める上ではできるだけギャップを大きく埋められる技術やスキルを持った相手を見出すことが重要だが、そういう相手は競合も探している可能性が高い。そのため、片手間でなく本気で探さなければ、先を越されるリスクが大きい。グローバル企業は、常に本気で探している。例えばP&Gでは、100人規模で国ごとに注力する分野を決め、徹底的にリサーチすることで、日本企業よりも早く日本の技術を手に入れている。

 「すべての会社がP&Gのようなネットワークを構築できるわけではない。自社の研究者や技術者だけで、必要な技術を探し出すことは困難である。そこで、すでに国内外の研究者やアイデアを持った人材をネットワークした組織を使い分ける仕組みを構築することが必要になる」(諏訪氏)

 ナインシグマのマッチングプログラムの特長は、必要な世界中の技術を匿名で探せること。1対1だと、要求を具体的に伝えにくいため、腹の探り合いになってしまい、なかなか先に進まない。ナインシグマが間に入ることにより、社名は伏せながら、必要な技術を見つけることができる。

 「最大の特長は、公開情報で探しても見つからない技術を、かなりの確率で見つけ出すことができることである。世界200万人のデータベースを有するが、常に世界中で新しい研究者を見つけて登録している。案件ごとに約1万人の研究者を選び、直接働きかけることで、顧客にニーズをより大きく満たす提案を集めることができる」(諏訪氏)。

 集める情報やアイデア、求める情報の深さに応じて、ネットワークの使い分けをすることが重要。オープンイノベーション成功の鍵は、社内だけで悩むのではなく、有効な技術やアイデアを外に求めること。必要とする技術が見つかる確率は、どんどん高まっている。

 「オープンイノベーションで効果を上げるには、オープンイノベーションを推進するリーダーがいることや、トップの方針が具体的であることが重要。またプロジェクトリーダーからトップまで、いつまでにどんな成果を上げるかという目標指標に一貫性があることが必要になる。これにより、オープンイノベーションは一気に動き出す」と締めくくった。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆