連載
» 2016年01月27日 08時00分 公開

顧客のニーズを満たすのは当事者意識から経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(2/2 ページ)

[聞き手:井上敬一、文:牧田真富果,ITmedia]
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「もっと気軽に検診ができるサービスを」という思いから作り上げたワンコイン検診事業

山内氏(左)と聞き手の井上氏(右)

井上 社会起業家とは、社会にとってどのような存在なのでしょうか。また、これまでにどのようなソーシャルビジネスをサポートされてきたのですか。

山内 社会の中の課題を発見する役割を担っているのが社会起業家です。社会起業家は、お金になるかならないかという判断基準で事業を選びません。社会の課題を解決するという目的が先にあり、その手段としてビジネスモデルを考えるのです。ビジネスでは成り立たない場合は、寄付や行政とのパートナーシップを持つというように、手段を変えます。

 ワンコイン検診事業を展開しているケアプロという会社があります。代表は、もともと看護師でした。看護師時代、足を切断しなければならないほど病状が悪化して病院へ来た糖尿病患者に出会ったことがワンコイン検診事業を始めるきっかけになったそうです。会社に勤めている人は定期的に健康診断に行きますが、独立すると健康診断の枠組みから外れることになります。また、経営者だけではなく、ホームレスや無職の人も健康診断に行く機会が持てずにいる人が多いです。そういった状況を知り、もっと気軽に検診ができるサービスがあればいいのにという問題意識からスタートし、今では競合も含め、2000店舗ほどのマーケットができあがりました。

問題に対して、自分自身を主語にした当事者意識を持つことが重要

山内 東海地方の創業支援をしていたときには、がん患者と白血病患者専門の美容室を経営している元看護士の女性に出会ったことがあります。完全個室で、髪の毛のカットだけではなく、病気による生活の不安を聞くなど、メンタルケアも行っています。彼女の美容室は、全国からお客さんが来るほど必要とされる事業となりました。こんな美容室がもっと日本中に広がるべきだという思いから、ノウハウ提供をしている提携店舗は現在25店舗にまで拡大したそうです。

 がんや白血病になると、投薬によって髪の毛が抜けます。かつらを作りたいという人が多いそうですが、人毛のかつらはとても高価で、中には50万円するものもあり、諦めざるを得ない人がたくさんいます。彼女が看護師時代に出会ったある女性は、人毛のかつらを諦めて、安価なかつらをつけていたそうです。その後、亡くなられた際に、安価なかつらをつけて棺に入っている姿を見て、非常に悔しい思いをしたといいます。工場と交渉をすればもっと安価にできるのではないかと考え、中国に出向き、自ら交渉したそうです。その結果、5万円で人毛のかつらを提供できるようになりました。美容室の経営とともに、かつらメーカーも経営しています。

井上 身近なところで憤りを感じたり、悔しい思いをして、当事者意識を持った人が創業したからこそ、社会から必要とされ、結果として拡大しているんですね。

山内 大事なのは、それぞれの立ち位置から生み出される問題提起です。その人の視点からアクションを起こすからこそ、自分自身を主語にすることができ、当事者意識を持てるのです。初めは小さなことでも、視野を高めていくうちに、どんどん世界が広がり、社会に与えるインパクトも大きなものになります。

 当事者意識を持つことができれば、不平不満をいうよりも、仕事に工夫をするようになる

井上 最近は、社会起業に興味を持つ人が増え、社会の役に立つことを重要視している若者が増えているように思います。働くということに対する価値観の変化を感じます。

山内 社会貢献に関心がある人、自分の仕事が誰のためになるのか実感を得たいという人は間違いなく増えていると思います。アメリカのある調査では、ミレニアム世代の社会貢献に対する欲求が高まっているという調査結果が出ているそうです。日本でも同じことがいえます。

 社会貢献への関心の高まりには、帰属意識が関係していると考えます。帰属意識は、自分がなぜここで生きているのか、なぜこの仕事をしているのかということにつながります。それを分かっていないと、不安定な状態になってしまいます。昔は地域に対して帰属意識を持つことができましたが、今の時代は帰属意識のよりどころが複雑になっているといえます。改めて地域に帰属意識を持つ人が増えているのかもしれないし、社会課題を解決することや、人のために役に立ちたいという思いに仕事をする意味を見出す人が増えているのかもしれません。

井上 どのような働き方ができれば、顧客に最良の価値を届けることができようになるのでしょうか。

山内 自分が働く意味、その根っこの部分を分かった上で、当事者意識を持ち、自分と仕事と組織がつながっている。そういう生き方をみんなができたらいいのではないでしょうか。それができれば、ポジティブになれるし、不平不満をいうよりも、仕事に対して工夫をするようになりますよね。それぞれの人たちが置かれている立ち位置で、人生のその時々で、自分の役割を感じながら、わくわくすることをやり、いきいき、楽しく過ごすということが最も大切なことだと思います。

対談を終えて

終身雇用制度があり、働いていれば必ず給与アップが保障され一生安泰である。だからこそ余計な事を考えずとも一所懸命に働き会社への帰属意識も自然発生する。そういったものが崩れ去った現代において、仕事や働き方そのものの多様性を受け入れ、生み出しているETIC.の取り組みは私にとって大変パワフルなものに映りました。仕事に一生を費やすというよりも自らの生き方を表現する方法としての仕事の立ち位置。今迄は一部のプロ野球選手やミュージシャンでしか体現できなかったであろうチャンスが当事者意識さえあれば得られる。稚拙な言葉ですがETIC.の素晴らしい取り組みに感動を覚えました。

大好きな事を仕事にする人達がこれからも増えていく事を心から願います。

プロフィール

井上敬一

ブランディングコミュニケーションデザイナー

株式会社FiBlink代表取締役

兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、WEBセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済を牽引する役割を目指す。

圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルをわかりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。

 主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。


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