フォークリフトに関しても同様の技術革新が進むと予想される。自動運転や倉庫ロボットと同様の自律制御技術が確立されれば、ガイドの必要性や荷役作業の低速性といった従来の無人フォークリフトにおける課題を解消できる。 昨今の技術革新の速度を鑑みるに、倉庫内のフォークリフトが全て自律制御される日も遠くはないだろう。
足元では、作業員の労働負荷を軽減する技術革新が進みつつある。 装着者の筋肉の動きを補助するサイバーダインのパワードスーツ“HAL”、作業員を自動追尾する ZMPの台車ロボット“CarriRo”など、IoTを活用した新しい物流機器の活用が広がっている。 これらの物流機器は“人の介在”をなくすものではないが、省人化へのステップは着実に進んでいるといえよう。
IoTの進化は、物流に関するあらゆる機能 ・情報を広く繋ぐ効果をもたらす。 調達 ・ 生産から小売 ・ 配送までのサプライチェーン全体が繋がることで、どこに、どれくらいのモノがあるのかをリアルタイムで把握できるようになる。 企業 ・ 業界間で物流機能 ・ 情報が共用されることで、物流会社や輸送手段/ルートをより柔軟に組み替えられるようになる。“モノ”以外の情報も繋がることで、最適な物流をより総合的に判断できるようになる。 即ちLogistics 4.0 は物流インフラの標準化による社会全体の革新といえる。(図C参照)
業界最大手の紳士服販売チェーンである青山商事は、物流管理に RFIDを活用した先駆的プレイヤーである。 同社のハンガーにはRFIDタグが取り付けられており、入出荷の情報はセンサーで自動的にトレースされる。 物流センターには、ハンガーに吊された衣類を自在に動かすことのできるホイールシステムが導入されており、RFIDを利用した“絶対単品管理”によりピッキングから出荷までの一連のプロセスを完全に自動化している。
Boschは、生産・物流に関する情報を取引先の企業と共有するバーチャル ・ トラッキングを導入している。 取引先との物流において使用されるコンテナやパレットには RFIDタグが取り付けられており、入出荷のデータ管理を自動化するだけではなく、在庫の適正化にも活用している。 生産や輸送の状況もリアルタイムで共有されており、需給の変動や輸送環境の変化に応じた生産 ・ 物流計画の弾力的な見直しを可能としている。
青山商事や Boschにおける上記取り組みは、特定の企業/グループ内での個別最適の事例といえるが、将来的には業界のスタンダードとなる可能性がある。例えば、青山商事のホイールシステムはおそらく同業他社でも有効に機能するはずである。 全ての物流情報が管理され、運用ノウハウさえもデジタルデータで蓄積されているとすれば、他社は同システムを購入するだけで同等の物流効率化を成し遂げられることになる。Boschのバーチャル ・ トラッキングにも同様のことが当てはまる。 複数の企業間で共用可能なシステムであることを考えると、他業界への展開も十分に想定できる。 つまり、IoTが進化し、物流のデジタル管理が進むと、企業・業界間での差異性が縮小するといえる。
DHLのソリューションベンダーである Agheeraは、物流会社からのデータを統合管理可能なオープンプラットフォームを開発している。同プラットフォームは複数の物流会社のデータシステムと接続しており、荷主は Agheeraのサイトにアクセスすることで、荷物の現在情報を一元的にトレースできる。 委託先の物流会社を変更しても管理システムを変える必要がなくなるため、スイッチングコストを引き下げることにもなるだろう。
Agheeraのオープンプラットフォームは、未だ試験的サービスの範疇を超えていないが、物流会社との接続が飛躍的に拡大し、ポータルサイトとして機能するに十分なユーザー荷主数を確保したとき、フォワーディングビジネスの競争環境を劇的に変化させる可能性がある。フォワーダーが今まで担ってきた物流の手配機能をオープンプラットフォームがより広い範囲で代行できるようになるからだ。
かつて、日本には、「帰り荷を集めたい運送会社」と「安く荷物を運びたい荷主」をマッチングする、“水屋” と呼ばれる仲介業者が数千も存在していた。1990年代後半、一部の先進的プレイヤーがITシステムを導入し、取扱情報量の拡大とマッチングのデジタル化を実現すると競争の様相が一変する。大多数の零細業者は淘汰され、一部の先進的プレイヤーが寡占的地位を占める業界となった。
Agheeraの親会社であるDHLは、その変化を先取りしようとしているのではないか。Logistics 4.0 による競争環境の変化を見据えた戦略的判断が重要度を増しつつあるといえよう。
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