Logistics 4.0――物流ビジネスにおける新たなイノベーション視点(5/5 ページ)

» 2016年02月03日 08時00分 公開
[小野塚征志ITmedia]
Roland Berger
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4.ロジスティクスの変化を見据えた戦略的投資の重要性

 Logistics 4.0により物流の省人化・標準化が進むことは間違いない。完全自動運転やオープンプラットフォームといった画期的ソリューションが物流ビジネスに大きなインパクトを与えることも必定である。問題は、その変化が“いつ”、“どこで”進むのかがわからないことにある。

 例えば、自動車メーカーやサプライヤーは2020年代に自動運転の実用化が進むと予想しているが、高速道路での自動運転が広く一般化するタイミングは漠としている。将来の自動運転化を見据えて、トラックドライバーの雇用を抑制するにしても、現時点では長期計画を立てにくい。

 RFIDによる物流管理も同様である。RFIDタグの価格は、2020年に5円を切ると予測されている。コンテナやパレットといった再利用可能な全ての物流機材にRFIDタグを取り付けることが現実的な水準に至る。然りながら、2020年をターゲットに、物流機材の交換を進めることが妥当とは限らない。近い将来、使い捨てが可能な水準にまで低廉化が進むとすれば、RFIDタグをバーコードのように使用することを想定した戦略的投資を実行すべきだからである。

 将来における変化のタイミングを正確に予測することが困難である以上、シナリオプランニングを通じてあらゆる可能性を多角的に検討しておくことが重要である。そして、いくつかの“変化のシナリオ” を予め想定した上で、変化の“トリガー” となる先行指標を継続的にモニタリングし、迅速に対応/軌道修正できるようにしておく。

 自動運転であれば、各メーカーの開発状況に加えて、法律や自動車保険制度の整備状況もモニタリングの対象となる。RFIDであれば、タグの価格だけではなく、タグの付加装置やデータベースシステムの開発状況も注視すべきである。業種や地域によって普及のタイミングに差が生じることも考慮すべきといえよう。

 物流会社は、Logistics 4.0 により“物流の装置産業化” が進むことを直視すべきである。省人化は、“人によってパフォーマンスが変わるプロセス” を必然的に減少させる。標準化は、企業・業界間での物流の差異性を縮小する。つまり、同等の物流施設・設備・システムを揃えれば、物流品質も同等になるということだ。

 自動運転や倉庫ロボットをイメージすると理解しやすい。完全自動運転が実用化した世界において、ドライビングや配車管理で優劣は生じない。倉庫が完全に無人化すれば、現場でのオペレーションノウハウは実質的に不要となる。あるとすれば、配車やオペレーション管理のアルゴリズムの差だけだ。

 トラック輸送は典型的な労働集約型事業である。日本にあるトラック運送事業者の99%は中小企業だ。完全自動運転が実用化すると、トラックドライバーという労働は不要となる。かつての“水屋”と同様、大多数の零細運送事業者は淘汰されるだろう。

 物流機能・情報が広く共用されるようになれば、社会全体としてトラックの稼働が平準化する。普通のトラックで運べるようなモノであれば、どの物流会社に頼んでも価格や品質に差が生じなくなる。極論すれば、運送事業者はトラックという物流インフラを提供するだけの存在となる。トラックメーカーやリース会社が“トラックの提供者”として運送事業を手がけるようになるかもしれない。

 倉庫のビジネスモデルも大きく変わるはずだ。倉庫での荷役作業が遍く倉庫ロボットに置き換えられたとき、荷役は装置産業化する。物流不動産会社が倉庫ロボット付きの施設を開発・提供するようになったとき、従来型の倉庫会社は荷役という収益の源泉を失う可能性がある。

 フォワーディングビジネスの変容は先に述べた通りである。物流の受発注をオープンプラットフォームで統合管理できるようになったとき、物流の手配機能はシステムに置き換わる。ポータルとしての地位を得られるのは極一部の物流会社だけだ。大多数の物流会社は、物流アセットを提供するだけの“装置会社” と化すであろう。

 自動車メーカーは10年先を見据えて自動運転に取り組んでいる。果たして日本の物流会社は上記将来変化を見据えた長期戦略をどれだけ議論できているだろうか。自動運転が2020年代に実用化するとすれば、決して遙か遠い未来の変革ではないことは明らかだ。DHLに、オープンプラットフォームを確立されてから議論しても後の祭りである。

 荷主であるメーカーや流通業者もLogistics 4.0 による変化を見据えた物流戦略を議論しておくべきである。物流の省人化・標準化が進めば、余程特殊なモノでない限り、物流アセットを自社保有することのメリットがなくなる。外部の物流アセットを共用した方が総じて効率的となるからだ。近年相次いでいる、物流子会社の売却や共同物流の拡大といった取り組みは、将来の変化に即した動きといえる。

 SiemensやDaimlerは、事業環境の変化を見据えた物流の将来戦略を策定・発表している。Boschのバーチャル・トラッキングのように、サプライチェーン全体を統合管理するロジスティクスシステムは重要性を増すはずだ。荷主として、物流を“よりうまく使える仕組み” を構築しておくことが大事といえよう。

著者プロフィール

小野塚征志(Masashi Onozuka)

ローランド・ベルガー プリンシパル

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て現職。物流、流通、製造、金融などを中心に幅広いクライアントにおいて、新規事業戦略、成長戦略、企業再生、M&A戦略、オペレーション改善、サプライチェーンマネジメントなどを始めとする多様なプロジェクト経験を有する。


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