中川政七商店が考える、日本の工芸が100年先も生き残る道とは?ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(1/5 ページ)

全国各地の工芸品を扱う雑貨屋「中川政七商店」が人気だ。創業300年の同社がユニークなのは、メーカーとしてだけでなく、小売・流通、そして他の工芸メーカーのコンサルティングにまで事業領域を広げて成功している点である。取り組みを中川淳社長が語った。

» 2016年07月20日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

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 駅前の商業施設などで幅広い年齢層の女性客がひときわ集まる雑貨屋がある。陳列されている商品は手ぬぐいや食器類など日本の工芸品。来店した人たちは思い思いに商品を手に取っては購入していく。店の名は「中川政七商店」。オリジナル商品を中心に、全国の暮らしの道具を取りそろえるセレクトショップである。

 同名の運営会社は、奈良県奈良市に本社を構える。創業は1716年。今年でちょうど300周年という老舗企業だ。奈良晒(ざらし)という麻の晒し布で商いを始めたのが、元々の始まりである。

中川政七商店のハンカチブランド「motta」 中川政七商店のハンカチブランド「motta」

 1983年に株式会社化し、現在は自社商品の製造・販売だけでなく、他社商品の卸や小売までも手掛ける。店舗ブランドは先述した中川政七商店のほか、布製品を販売する「遊 中川」、その地域に特化した土産物を扱う「日本市」を展開する。

 中川政七商店の事業のもう1つの柱が、工芸メーカーへのコンサルティングサービスだ。同社は「日本の工芸を元気にする!」を経営ビジョンに、工芸品にかかわるメーカーや産地が、自治体などの補助金に頼らず黒字経営するような経済的自立を後押しする。

 実は、かつては中川政七商店も、今支援しているような中小の工芸メーカーと似たような経営状況にあった。それを新たな事業成長の軌道に乗せたのが、現社長の中川淳氏である。2016年2月期の売上高は46億8000万円で、2008年に中川氏が十三代目社長に就任してから売上高は10倍以上に増えたという。

 そこにはどのような改革があったのか。同社のこれまでの取り組みなどについて、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科(一橋ICS)の大薗恵美教授が、中川氏に聞いた(以下、敬称略)。

大企業から小さな会社へ

大薗: 中川政七商店のビジネスがユニークだと感じるのは、1つは日本の工芸品をベースにした製造小売業(SPA)を行い、もう1つは工芸メーカーへのコンサルティングなどを通じて、彼らの商品開発力をより高めて流通に乗せる支援をしている点です。

 中川さんは元々、富士通に就職したわけですが、ご実家である中川政七商店に戻るときにこうした事業構想は既にあったのでしょうか?

中川政七商店の中川淳社長 中川政七商店の中川淳社長

中川: 正直言いますと、ノープランどころか、家業が何をしているかもよく分かっていませんでした。ですので、そもそも家業を継ぐつもりはなく、父親からも継げと言われたことは一度もありません。

 大学卒業後、メーカーで2年間働いているうちに、仕事をやっただけポジションを与えてくれるような会社に行きたいと思うようになりました。今いる大企業ではそれが難しいことは分かっていたので、小さい会社で、かつIT業界以外に行こうということで、いろいろと探しました。

 そうしたときに、実家の会社を思い出したわけです。小さくてIT企業でもない、しかもちょうどそのころに東京で初めて「遊 中川」を出店したところだったので、何となく伸びているのだなと感じて転職を決意しました。

 ところが、父親に相談すると一言、「アカン」と反対されてしまいました。その後もさんざん言われましたが、頭下げて何とか入社させてもらいました。2002年のことです。

大薗: メーカーで働いた2年間の経験は役に立ちましたか?

中川: ITシステムの会社だったので、1年目から子会社や孫会社を相手にプロジェクトマネジャーを務めるという役割を与えられました。その経験を通じて、単にビジネススキルの習得だけでなく、仕事をどう回すべきなのかということが大いに勉強できたと思います。

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