相手のために一肌脱ぐ、相手が一肌脱いでくれるという期待感、自信感が発生するのは、圧倒的に一緒に修羅場をくぐった経験です。つまりビジネスの現場で重要な人脈が作られるのは、一緒に修羅場を乗り越える行動をとることです。
修羅場を経験することほど広範囲にかつ深く人間を知る機会はありません。予測が難しく事態が推移する場面でお互い協力し、もしくは並列で個々が努力して解決するという経験は、定常時よりも格段に多くの相手に対する情報を蓄積することになります。相手の本性も見えるでしょうし、意外な一面も発見するかもしれません。相手を精査し、相手の考え方をシミュレーションし、その結果相手に対する信頼感を醸成させるのです。人に対してネガティブに考えがちの思考傾向を持つ人にとっても、一緒に修羅場をくぐったという経験は信頼育成に大きな貢献になります。
修羅場はどこにでも転がっています。順調にいかないプロジェクト、客先。一つひとつを経験し、誰かとともに作業することはある種の修羅場経験です。私の勤務するビジネススクールは、学生達は課題と試験に追われるある種の修羅場の毎日ですから、ここで人脈ができるというのも納得がいく話です。
期限と求められる成果物の2つの条件があれば修羅場は成立します。期限がついていることが重要です。出口の無い修羅場はメンタルを壊すことが多いのです。結果に対するリスクがあること、精神的にハードであることが修羅場のマイナスの部分です。そして、修羅場は人にとって良い意味でも悪い意味でもストレスを伴う時間です。一方で副産物として人脈が広がるという果実があるのです。
ディスカッションの授業で、MBA学生達にロールプレイをしてもらうことがあります。会社でビジネス上の情報を相手にどの程度伝え助けるか、立場を色々設定して演じて貰うのです。学生達が最もきちんとした対応と正確な情報を伝え、できる範囲で助けようとすると答えた相手は、学生時代の仲間、いわゆる同期入社の仲間、そして一緒に仕事をした社内外の仲間でした。人には言わない情報もこれらの人達には与えると学生達は口をそろえます。
そして、なぜこれらの仲間には情報を与えるのか、と聞くと「いつ自分がお世話になるかもしれないから、相手にはできる限りのことをしておく」「一緒に修羅場をくぐったから心理的に(相手に)近い」という趣旨の答えが必ず返ってきます。協働作業をおこなった、一緒に何かをやり遂げたという経験は、信頼感を熟成させることに直接作用します。
人脈を作ろうと思ったら修羅場を積極的に経験することです(先に述べた出口政策は必要ですが)。この経験はあなた自身もレベルアップさせるでしょうし、人とのつながりをより強固にすることは間違いありません。
モルガン・スタンレー証券会社勤務をへて、サンダーバード国際経営大学院国際経営学修士(MIM)、慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士(MBA)、同博士課程修了。経営学博士。専門は危機管理、組織行動。
主な著書『女性マネージャー育成講座』(生産性出版)、『人脈の出来る人 人は誰のために「一肌ぬぐ」のか?』(慶應義塾大学出版会)、『危機対応のエフィカシー・マネジメント −「チーム効力感」がカギを握る−』(慶應義塾大学出版会)、『組織マネジメント戦略 (ビジネススクール・テキスト)』(共著、有斐閣)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授