海外展開、新たな業態の店など、ラーメン業界で常に新たなことを仕掛チャレンジを続ける。その根底にあるのは楽しんでほしいという思い。
31年前、九州・博多で生まれた「一風堂」。それまでのラーメン屋のイメージを覆し、女性がひとりでも入りやすいお店作りを目指してきた。モダンな店内と、細やかな気配りが行き届いた接客によって、固定ファンを多数抱える。海外展開、新たな業態のラーメン店など、ラーメン業界で常に新たなことを仕掛け続ける一風堂のカルチャー、顧客満足に関する取り組みについて、役員となった現在でも現場に立ち続ける力の源カンパニー 島津智明取締役に話を聞いた。
井上 島津さんは、ニューヨーク店舗の立ち上げを担当したそうですね。一風堂でのキャリアのスタートはどういったものだったのですか。
島津 今は、取締役と営業本部長を兼務していますが、最初は、アルバイトから一風堂に入ったんです。その頃は、専門学校に通いながらアルバイトをしていました。働いてみると、「ラーメン業界を変えてやる」という志の高い人たちばかりで、「こんな風になりたい」「この人たちと一緒に働きたい」と一風堂で働き続けることを選びました。
井上 その後、東京、ニューヨークと店舗を任されるまでになったのですね。
島津 福岡から東京に出てきてからは、五反田で初めて店長を務めました。千葉・東京の店舗の立ち上げも経験し、その後、2008年からニューヨーク店を立ち上げて、去年日本に帰ってきました。その後は、新たな試みとして、「一風堂スタンド」を始めました。日本酒とラーメン、つまみを楽しめる立ち飲み屋です。
井上 一風堂スタンドのように、一風堂は、他のラーメン店がやっていないことを仕掛け、常に業界を引っ張ってきたというイメージがあります。昔からそういった価値観が根付いていたのですか。
島津 まだ九州のみの出店だった頃から、「先駆者になる」ということを掲げていました。他がやっていないことを最初にやる店でありたいという思いは常に持ち続けていますね。
創業当時、まだラーメンがブームになる前から、一風堂は「ラーメンの格を上げる」という強烈なメッセージを持っていました。
井上 今の一風堂のようなおしゃれな店構えではなく、ちょっと汚いくらいがラーメン屋だというイメージがありましたよね。
島津 創業当時の1985年は、福岡のラーメン店というと、「臭い・汚い・恐い」の3Kのイメージでした。とても女性がひとりで行けるような場所ではありませんでした。一風堂は、その3Kをひっくり返し、女性がひとりでも来られるような店にできれば、そのターゲット層を総取りできると考えたんです必然的に、一風堂はサービスの基準を自ら上げることになりました。固定概念を覆して新しい価値を生み出そうという意識で店作りをしてきたからこそ店舗数は拡大し、全国区のラーメン店となることができたのだと思います。
井上 一風堂の求人で、「演者・演出家求む」というのを拝見しました。これには、どういった思いが込められているのですか。
島津 創業者の河原に「店は舞台だ」といわれ続けてきました。私たちラーメン店に与えられている時間は、せいぜい15分です。お客様が扉を開けてから、ラーメンを食べて、帰るまでのその短い間に、できるかぎりのおもてなしをしなければ、次にはつながりません。単に、ラーメンを提供するということではなくて、店という舞台で、お客様の食事の時間である15分を演出しているんです。
井上 他の業態の飲食店と比べて、ラーメン店は滞在時間が短い分、また来たいと思ってもらうためには、相当洗練された接客による時間の演出が必要なんですね。
島津 15分という短い時間だからこそ、高いレベルのおもてなしが求められます。ホテルなどで一泊するお客様だったら、もし、お出迎えでミスがあったとしても、その後でリカバーできるかもしれません。しかし、私たちのおもてなしは、短い時間の中、一瞬一瞬が一発勝負なんです。
店に入ってきたときの「いらっしゃいませ」の声、おかわりの聞き方やタイミング、ビールの出し方など、一瞬のおもてなしの表現が求められているんです。一日三食の中の一食に自分たちの店を選んでくれたからには、気持ちよく食事をしていただく責任があります。ラーメンという料理を提供するのではなく、ラーメンも含めた15分間という時間を演出するという意識でいます。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授