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» 2016年12月14日 07時14分 公開

店は“舞台”、提供するのは食事の“時間”! 徹底的に15分を演出するラーメン店、一風堂の店作り・接客の極意とは経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(2/2 ページ)

[聞き手:井上敬一、文:牧田真富果,ITmedia]
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“ダストボックス”に顧客満足を高める答えがある

井上 顧客満足度を高める施策として、一風堂はどのようなことに取り組んできたのですか。

島津取締役(左)と聞き手の井上氏

島津 ラーメン店というと、気合と感覚だけで営業していると思う方も多いようですが、もちろん実際はそうではありません。競争が熾烈ですから、かなり細かなことにも気を配らなければ、繁盛する店作りはできないのです。私たちは一風堂なりの指標を定め、クオリティを高めてきました。

 通常、飲食業の指標である客数と客単価は、来店したその時のお客様の評価ではありません。お客様を感動させても落胆させても、その結果が現れるのは、次回なんです。アンケートでもしない限り、その日、その時の評価を知ることは難しいですよね。

 そんな中で、一風堂は"今"のお客様の満足度を計測するのに、「ダスト量(食べ残し量)」を目安にしています。お客様が召し上がった後、どんぶりをざるに捨てたときに、そこに残った麺やねぎ、チャーシューなどの量を毎日計測しています。ダストの総量をお客様の数で割り、1人当たりのダストの重さを出しています。

井上 なるほど。食べ残しにフォーカスすることよって、オンタイムでラーメンやサービスの善し悪しを確認できるんですね。

島津 ネギの食べ残しが多かったら、ネギのカットの仕方が悪いのではないか? 麺の残しが多かったら、好みの硬さと違っていたのではないか? といったことを確認します。ダストにこそお客様の評価が表れると考え、原因を確かめるのです。店長や社員だけではなく、パートや学生アルバイトも、ダストを気にする習慣が身に付いているのが一風堂の特徴かもしれません。うまいラーメンと心地よい食事時間の提供という意識を店全体で共有できているんです。

 以前、店長や先輩方を集めて、一風堂のベテラン店員だけで営業をしたことがありました。1日の営業を終えて、ダストを計測してみると、お客様ひとり当たりたった3グラムでした。ラーメンそのものの出来はもちろんですが、店の雰囲気が大きく関係していることがこの結果には表れていると思います。誰だって、扉を開けたときに気持ちのいい挨拶があったり、絶妙なタイミングで替え玉を勧めてくれたりすると、気分がいいですよね。店全体の盛り上がっている雰囲気と、きちんとした心配りのある接客は、ダストの量に確かに影響するんです。

店でお客様にどんな時間を過ごしてほしいかをいつも意識する

井上 15分という短い時間の中で、一瞬のおもてなしが求められるという話でもあったように、島津さんは、まっすぐにお客様一人ひとりに寄り添い、どれだけ楽しませることができるかをいつも中心に考えているのだと感じました。

島津 このタイプのお客様だったら、ある程度踏み込んで接客しても喜んでくれるだろうなというような接客の距離感が分かっていれば、極限まで距離を詰めてみるのも、おもしろいと思いますよ。相手を楽しませたいという気持ちが中心にあれば、お客様は楽しんでおもしろがってくれます。そういう接客をしていると、お客様も自分のことを覚えてくれるようになります。「会いに来たよ」といってくれること以上にうれしいことはありません。

井上 島津さん自身がお客様とのコミュニケーションを楽しんでいるのが伝わってきます。島津さんのアイデアで生まれたという一風堂スタンドでも、お客様の店での時間を演出しようという工夫がありそうですね。どういった思いで一風堂スタンドを始めたのですか。

島津 一風堂スタンドは、日本酒とラーメンを気軽に立ち飲みで楽しめるお店です。ニューヨークで店を出したときに知った「ウェイティングバー」(レストランなどでテーブルが空くのを待つ間に、食前酒を飲んだり、おつまみを食べたりするバー)というニューヨークの文化、酒屋のカウンターで立ち飲みする「角打ち」からコンセプトを得ました。

 意識しているのは、他の店と同じことはせずに、少しでもお客様が楽しんでくれる方法を実践することです。例えば、一風堂スタンドでは、お通しに枝豆ではなく、魚肉ソーセージや駄菓子を出そうと思っています。来店する年代の人たちにとっては、駄菓子は懐かしさを誘い、心の琴線に触れるものです。そんなちょっとした「嬉しいこと」を積み重ねていけたらと考えています。お客様にどんな時間を過ごしてもらいたいかをいつも考え、メニュー開発や接客をしていますね。

井上 お客様を楽しませようということを突き詰めているからこそ、料理を提供することから、飲み食いする時間を提供するという軸へと価値提供の考え方をシフトしているんですね。

 スタンドという新しい業態の店によって、今後さらに一風堂の新たな可能性が開かれる気がします。

対談を終えて

 「店は舞台である」創業者の河原さんの言葉。一風堂は顧客満足を超えて、顧客感動の創出をしていると感じました。全てはこの言葉に集約されています。大切なのは、お客様がお店に入ってから出るまでのたった15分、この時間をいかに魅せられるかということです。創業者の方のみがこういう思いを持って仕事をする企業はありますが、一風堂は社員やアルバイトの方にまでこの思いが浸透し、実践されていることに感嘆しました。

 最も印象的だったのは、接客の善し悪しでお客様の食べ残しの量が変わるということです。味そのものが大切なのは理解できますが、お店の雰囲気や空気感が人の食欲を変えてしまうという事実、またそこを数値化し、指標として味や接客に生かす取組みに、ただただ驚きました。ラーメンではなく、お客様に楽しい時間を売るという最上位の概念からくる理念経営に、接客業出身の私は胸を打たれました。一風堂は、想いと戦略の両軸を備えた類稀なる企業です。

プロフィール

井上敬一

ブランディングコミュニケーションデザイナー

株式会社FiBlink代表取締役

兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、WEBセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済を牽引する役割を目指す。

圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルをわかりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。

 主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。


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