MBAは「マンモス」か?――次世代リーダーは現場から育てるのが日本流(2/2 ページ)

» 2017年03月01日 07時01分 公開
[山下竜大ITmedia]
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日本企業の独自性は「モノづくり精神」にあり

 世界では、金融資本主義の傾向がますます強くなっています。お金でお金を生み出したり、M&Aにより安易に企業価値を高めたりする手法が広がると、ゼロから何かを創りだすことは非合理的であるという思考が強くなります。M&Aで企業価値を高めたり、株価を上げたといっても、その経営者は自らは何も新しい価値を生み出してはいません。しかし、その経営者は名経営者という評価になります。

 これでは、イノベーションなど起きえません。日本の会社の独自性は、現場を中心に、自分たちで新しい価値を生み出す「モノづくりの精神」にあると思っています。これまで日本が大事にしてきたものを全否定して、M&Aで儲ければよいというような考え方が蔓延するのはいかがなものでしょう。ROE(自己資本利益率)が高くなければ意味はないと切り捨ててしまっては、日本は成り立たないと思っています。その意味でも、日本におけるビジネス教育は、「米国とは違うもっとオリジナル性の高い教育が生まれてくるべき」だと私は考えています。

 例えば欧州は、日本と類似性が高く、家族経営を大事にし、自社に対するプライドも高く、レジェンドを引き継ぐ企業が数多くあります。米国的な資本主義とは一線を画し、必要なものは採り入れるが、すべてを米国式にする必要はないと考えています。自社のDNAや歴史に対するこだわりも強く、それを教育するプログラムも持っています。自社のことを本当に理解し、DNAを受け継ぐ次のリーダーを、いかに育成するかが日本企業にも必要なのです。

 ほかの国なら単なるルーチン業務でも、現場が目の色を変えて取り組むのが日本らしさであり、これからも引き継がれなければならない大事なことです。"こんなことをしていても自分は成長できない"と思うのは、仕事に問題があるのではなく、自分自身に問題があるのです。どんな仕事でも自分は成長できると思えば、自分なりに工夫して、目標を定めて、前向きに取り組むことができます。それでなければ、いつまでも青い鳥を探すことになります。

 面白い仕事と面白くない仕事があるのではなく、自分が仕事を面白くもつまらなくもします。仕事は1つで、それに対する見方が2つあるのです。どんな仕事でも、面白くできる人は面白くでき、面白くできない人はいつまでも面白い仕事を探し続けます。しかし、面白い仕事などありません。目の前の仕事を、自分で面白くできる能力を身に着けることが重要です。こういう人材を育成することができれば、その会社の活性化につながるのです。

石にかじりついてでも出世しろ

 次世代リーダーを育てるとき、米国のようにいきなりエリートを採用するのではなく、現場から育てるのが日本流です。現場を経験することは大事ですが、これからは圧倒的なスピード感をもって育てることが重要です。いかに会社の若返りを加速するかに尽きます。30代で課長、40代で部長は、当たり前の時代です。年齢にかかわらず、やる気と能力の伴った人材は、早期にリーダーに抜擢することが必要です。

 すでに取り組んでいる企業は多いのですが、もっともっと加速しなくてはなりません。「50代でしか役員になれないのは時代遅れ」です。年齢に関係なく、抜擢人事でもなく、正当に選ばれてくる仕組みづくりが必要です。人選において最も重要なのは、逃げない、正直、やる気などの「アティチュード(姿勢)」です。

 一方、リーダーを目指すビジネスパーソンは、石にかじりついてでも出世を目指してください。逆説的に思えるかもしれませんが、大組織で成果を上げよう、結果を残そうとすれば、ある程度のポストにつき、権限を持たなければ自由に動けません。いろいろな会社の人材を見てきましたが、せっかく能力があるのに部長止まりの人がいたり、この人がなぜという人が役員になっていたりして、大きな矛盾を感じることがあります。

 しかし会社側からすると、確かに仕事はできるが上司との折り合いが悪いとか、部下とのコミュニケーションが取れないなど、なんらかの理由があります。組織の中で生きていくためには、人との距離感をとれないと結局は損をします。つまらないことでチャンスを逃すのは、本人にとっても、会社にとっても不幸なことです。今の部長が理解してくれなくても、次の部長が来れば状況は変わるかもしれません。

 組織で働いている以上、残念ながら自分でコントロールできないことが多いのですが、そこに不満を持って腐っていてはもったいないことです。リーダーになる人は、このような状況でも腐るのではなく、自分でコントロールできることを黙々とこなします。こうした人材を、組織は評価します。石にかじりついてでもというのは、そういう意味です。

 激しく環境が変化しこれまでの常識が通用しなくなり、今まで学んだことが役に立たなくなるかもしれません。こんな時代だからこそ、人間としての基本的な教養、哲学、歴史などを積極的に学びながら、1人の人間としてどう生きるかを考えてみることが大切です。

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