「普通のことをやったらウチじゃない」――「ガリガリ君」クリームシチュー味を生み出した赤城乳業の“流儀”

シチュー味のアイスやコーンポタージュ味のアイスなど、斬新な新商品でたびたびネットの話題をさらう赤城乳業。そのユニークさの源泉はどこにあるのか。同社を密着取材した遠藤功氏による分析。

» 2013年11月15日 13時00分 公開
[本宮学,ITmedia]
photo 「ガリガリ君リッチ クレアおばさんのシチュー味」

 アイス「ガリガリ君」の新商品、「ガリガリ君リッチ クレアおばさんのシチュー味」が旋風を巻き起こしている。10月29日の発売直後から実食した人の感想がネットにあふれ、Twitterでは今も賛否両論の声が投稿され続けている。

 シチュー味のアイスキャンディーの中に、シチュー味のかき氷とポテトが入っているという斬新な構造のアイス。2012年に発売した「コーンポタージュ味」に続く異色シリーズの第2弾で、アイス業界ではライバル関係にある江崎グリコの「クレアおばさんのシチュー」とのコラボで開発された問題作だ。

photo シチュー味のアイスキャンディーの中にシチュー味のかき氷とポテト

 製造販売元は、1961年創業のアイス専業メーカー・赤城乳業(埼玉県深谷市)。2012年に350億円を超える売上高規模に対して社員数は約330人と少ないが、2カ月に1回以上のペースで新商品を出し続け、ネットで話題を呼ぶ企画を次々と打ち出す気鋭の企業だ。

 そんな同社のユニークさを生む原動力はどこにあるのか――赤城乳業の社員10人以上を取材して「言える化 〜『ガリガリ君』の赤城乳業が躍進する秘密〜」(潮出版)を著した経営学者の遠藤功氏(早稲田大学ビジネススクール教授、ローランド・ベルガー会長)に分析してもらった。


「コンポタ味」「シチュー味」を生み出した若手社員の力

――著書によれば、ガリガリ君のコーンポタージュ味は入社3年目と5年目の若手社員が中心になって開発した。

photo 遠藤功氏。赤城乳業の井上秀樹社長をはじめ社員10人以上を取材し、今年10月に「言える化 〜『ガリガリ君』の赤城乳業が躍進する秘密〜」を出版

遠藤氏 その通りです。この会社のすごいところは、新入社員だろうが3年目だろうが、いきなり大きな仕事を任せてしまうのです。普通の会社であれば見習い感覚の若手社員に、いきなり「やってみろ」と。しかも、商品開発部に配属された新人はだいたい主力商品であるガリガリ君を任されます。

 自分でガリガリ君の新商品を作るのは、若手社員にとってすごくやりがいのあることでしょう。ただ、ガリガリ君は約30年もの歴史の中ですでに数十種類のフレーバーが出されているので、そう簡単には新味など思いつきません。従って、彼らは重い責任に押しつぶされそうになりながら悩み続けることになります。

 これはコーンポタージュ味を作った人もそうでした。斬新でユニークなアイデアがなかなか浮かばず苦しむ中、彼はこれまでと全然違うものを出したい、みんなをびっくりさせたいとずっと考え続けました。そんなある時ふとコーンポタージュ味のアイデアを思いついたのです。

 その発想の原点は、お菓子の“うまい棒”でした。彼はコーンポタージュ味のうまい棒を食べている時に「これ、アイスにならないかな」と考えた。さらに、その時たまたまテレビで「コーンポタージュって嫌いな人いないよね」と芸能人が言っているのを見て、「コーンポタージュをアイスにすればみんな好きになってくれるはずだ」とチームに提案したそうです。

 開発チームは5人ほどで、それぞれ年齢や部署も違いますが「面白いものを作りたい」という気持ちは変わりません。若手である彼の意見に対して「やろう」と賛成してくれました。しかし、発売するかどうか最終判断する経営層などから当初はネガティブな意見もあったそうです。

 特に営業部門の人にとっては、いざ生産して売れなかったら自分たちの責任になるのでたまったものではありません。新商品は全国のコンビニエンスストアに置かれるため、少量だけ作って売るわけにはいかず、失敗した時のリスクがすごく高いわけです。さまざまな意見が交わされる中、最終的に「やろう」と決めたのは社長の一存でした。

 過去にない商品を出す場合、売れるかどうかは誰にも分かりません。これまで誰もやらなかったのだからダメなアイデアなのだろうと否定的に考えることもできる中で、「普通のことをやったらウチの会社ではなくなってしまう」「面白いから出してみよう」と振りきることができるのが、この会社のすごいところだと思います。

――ガリガリ君のシチュー味も、コーンポタージュ味と同じように若手社員中心で開発されたのか。

遠藤氏 そうですね、この2つのフレーバーは同じチームで開発されたと聞いています。

――コーンポタージュ味は発売直後に一時販売休止になるほど売れた。社員の反応はどうだったか。

遠藤氏 「これが売れちゃうんだ……」という感じですね。

 ただ、コーンポタージュ味やシチュー味のアイスは、この会社にとってはそこまで大きなサプライズではありません。過去にラーメンアイスやカレーアイスといった奇抜な商品をたびたび出し、失敗やヒットの経験を積み重ねてきた中で、チャレンジすることに逡巡しない企業文化ができあがっているのです。

――若手社員の活用で、斬新で面白いチャレンジが生まれている。

遠藤氏 若い人、特に20代の人には「何か新しいものを生み出したい、何か変えたい」という熱意や意欲が十分あります。ただし、一般的な企業はそれをまったく生かしきれていません。彼らに何も生み出させないまま20代を過ごさせるうちに、最初はやる気と活力にあふれていた若者を平凡なサラリーマンに変えてしまうのです。

 赤城乳業のすごいところは、20代の人に“大暴れ”させている点です。それだけ彼らに能力とやる気があると信じ、責任の大きい仕事を任せている。もちろん上司はただ放置しているわけでなく、若手社員の活躍を後方からサポートしている。そこで上司の経験が生きてくるのです。

 普通の企業ではどうしても、経験のある人が「俺たちのころはこうだった」などと若手社員に考えを押し付けてしまいがちです。そうせずに、20代の若手社員を主役に据え、経験のある人をサポートに回す。これが赤城乳業の強みにつながっているのでしょう。

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