連載
» 2017年07月26日 07時06分 公開

現場力を高め、顧客目線でシステム開発に取り組む体制とするために 〜優秀な若手システム部員をフロントに異動〜「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(2/2 ページ)

[聞き手:重富俊二(ガートナー ジャパン)、文:山下竜大,ITmedia]
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苦労は若いうちに経験した方がいい

――これまでの経験から得たものは何なのでしょうか

三井住友カード 森氏(左)、ガートナー 重富氏(右)

 大規模プロジェクトでは非常に苦しい時期がありましたが、苦しいときこそ、手を抜いてはいけないという教訓を得ました。ITのモノ作りは、1本のプログラムから。このプログラムが集まって、100本のプログラムになり、何百万ステップになってシステムが完成します。1本のプログラムをおざなりにすると、システム全体がだめになってしまいます。

 20代のエンジニア時代、どんなに苦しくても、プログラムという「モノ作りの本質」を見失ってはならないことをたたき込まれました。持論としては、ITの「モノ作り」の基本はプログラミングであり、モノ作りの工程を川上から川下まで経験することで、システム要件を確実に開発要件に落とし込むことができるはずだと思っています。デジタル社会の今では、モード2開発と言う新しい開発形態がありますが、モード2は、不明確な要件に対して、柔軟に即決して開発を進めていく手法であり、川上から川下も経験し、システム開発が可能だと言う勘所があるシンガー・ソング・ライター的な人材が必要なのです。

 また、ソフトウェアにバグがあるとベンダーを批判することがありますが、これは違うと思います。選んだのは、他でもない自分自身であることを忘れてはいけません。バグは、必ず回避する方法があるのだと考え、コンピュータの働き方改革を行うマインドが必要だと考えます。

 20代で学んだ「モノ作り」が今を支えており、苦労は若いうちに経験した方がいいと思っています。

最先端のことに取り組みたければ自らが変わり続ける

――カード業界やシステムにとって何が課題で、どのような方向性で物事を考えているのでしょうか。

 現在、デジタル社会が進んでいて、環境の変化が非常に激しく、これまでできなかったことができるようになってきました。UberやAirbnbなどは、昔は実現できなかったことができるようになる好例で、リソースの空き部分を活用したサービスです。

 クレジットカード業界も同じで、ECサイトが11月にセールをすると、そこがピーク日になったり、ゲーム業界が1月1日0時に新しいアイテムを発売したりすると、ここが新たなピーク日になったりしています。

 昔の常識で、今を判断してはいけない時代になっています。求められているのは、未来を予測して、自ら考え、商品やサービスを生み出す力です。最先端にいたい、最先端のことをしたいのであれば、自らが変わり続けなければなりません。

――新たにチャレンジしたのはどのようなことでしょうか。

 一例を挙げると、スマホやタブレット決済対応端末「Square」との提携があります。自分自身が加盟店となり、フリーマーケットでクレジットカード決済ができるなど、簡単にすぐ使え、今までカード決済が不可能であったスモールマーケットを開拓できるようになりました。

 また、「ココイコ!」と呼ばれるカード会員を加盟店に送客するサービスも展開しています。ココイコ! は、クリック1つで来店エントリーができ、有効期限内に対象店舗でカード決済をすると、会員に「キャッシュバック」や「ポイント」といった特典が提供されるO2O(Online to Offline)サービスです。

 これらのサービスも、従来はさまざまな課題があり実現が難しかったのですが、高コストだったものが低コストになり、時間を要したことが短時間でできるようになったことで実現できています。

――新しい仕組みに、IT部門はどのように関わるのでしょうか。ビジネスの担当者と一緒に創るのでしょうか。

 ココイコ! はクラウドサービスで実現しており、このクラウドサービスを採用したのはビジネス部門です。従来であれば、システム要件を洗い出してモード1で新しいサービスを開発しますが、ビジネススピードが求められるものはモード2で開発すべきで、モード1とモード2の「バイモーダル」を推進すべきと考えています。

 システム要件を確実に取りまとめ、計画を着実に実行する部分はシステム部門で対応し、顧客と直面しビジネスの可能性を広げていく部分はビジネス部門主導で柔軟に対応し、ビジネス部門の悩みがシステム部門に伝わる仕組みづくりを目指しています。環境変化が激しいデジタル社会においては、顧客と直面している部門の現場力を高めていくことが必要で、その実現にはビジネス部門の方が自分の故郷であるシステム部門のメンバーに、気軽に相談できる体制作りが必要だと考えたのです。

――最後に、CIOを目指す次の世代にメッセージを。

 好きな言葉は、第35代アメリカ合衆国大統領 ジョン・F・ケネディの「物をなくせば小さなものを失う。信用をなくせば大きなものを失う。勇気をなくせばすべてを失う」です。技術者を預かり、育ててほかの部門に輩出するのは勇気が必要でしたが、この言葉を思い出してトライしました。何事にも、勇気をもってチャレンジしてほしいです。

 また、ものづくりに対し、(1)緻密さ、(2)耐性、(3)予測、(4)協調力、(5)愛着、(6)向上心、(7)プロ意識の7つが必要だという思いがあります。(下図参照)幼い頃は動物が好きで、犬や鳥を飼っていました。動物は愛情をもって育てるとなついてくれます。コンピュータも同じように愛着を持って接すれば、必ず応えてくれると信じています。

対談を終えて

 インタビューで終始感じたことは、森氏もよく使われる「エンジニア魂」という言葉である。「森さん、森さん、もう限界です、助けてください!」とコンピュータの方から語りかけてくる言葉が聞こえてくる、という発言をお聞きした時には思わず微笑んでしまった。同時に森氏は一緒に働く部下のことを「子(こ)」と表現される。まるで、家族の一員として成長を楽しみにしている親父のようでもある。

 このような森氏は、今もエンジニアとして、経営者として、信念と長い時間をかけて人材育成に挑戦し続けている。その育成とは、How toとしての「育成」ではなく、エンジニアとしてのモノと人間に対する深い愛情がすべての原点にあるということを強く感じた。

プロフィール

▼重富 俊二(Shunji Shigetomi)

ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー

2011年12月ガートナー ジャパン入社。CIO、IT責任者向けメンバーシップ事業「エグゼクティブ プログラム(EXP)」の統括責任者を務める。EXPでは、CIOがより効果的に情報システム部門を統率し、戦略的にITを活用するための情報提供、アドバイスやCIO同士での交流の場を提供している。

ガートナー ジャパン入社以前は、1978年に藤沢薬品工業入社。同社にて経理部、経営企画部等を経て、2003年にIT企画部長。2005年のアステラス製薬発足時にはシステム統合を統括し、情報システム本部・企画部長。2007年の組織改変により社長直轄組織であるコーポレートIT部長に就任した。

早稲田大学工学修士(経営工学)卒業


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