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» 2017年10月23日 07時08分 公開

ASEAN:民間が主導する統合医療ネットワーク(IHN)飛躍(5/6 ページ)

[諏訪 雄栄(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

 Fullertonが現在開発中のサービスは、医療機関版Uberのようなサービスだ。顧客企業従業員が医療機関を受診したいと思った時に、現在受診可能な医療機関をアプリ上でマッチングする。マッチングのやりかたは、診療科目、現在地からの距離、医療機関の混雑度などを考慮するが、このサービスが完成すれば、患者の医療機関選択により一層影響を与えることができる、ということだ。Fullertonの顧客企業は25000社、加入者数は800万人、年間400万件の医療機関受診がある。

 Fullertonの強みは、自家保険を持つ顧客企業の「医療費の財布」を抑えていることと、受診の入り口となるプライマリケアを抑えていることだ。MBMSやプライマリケアグループは、民間セクターの裾野が拡大するにつれ、ますます重要になっていくだろう。

2.3 Sanitas Internacional(南米)

 Sanitas Internacionalは、スペインで創設されたヘルスケアグループだが、現在は南米4カ国(ベネズエラ、コロンビア、ペルー、ブラジル)を主要事業拠点としている。2015年にはアメリカとメキシコにも拠点を拡大した。近年は、次のステージとして、ASEAN(インドネシア、フィリピン、ベトナム、シンガポール)および東欧(チェコ、スロバキア、アゼルバイジャン、トルコ、ハンガリー)への拡大を進めている。2017年以降はアフリカへの展開も検討しているようだ。

 Fullerton Health同様に、Sanitasもプライマリケアと保険領域に特化した統合医療ネットワークプレイヤーだ。例えば、コロンビアでは、5つのクリニック、51のメディカルセンター(外来のみ)、48の検体検査センター、31の眼科センター、29の歯科クリニック、149の薬局をグループ傘下で運営している。同時に、Sanitasは、「Pre-paid Medicine」というユニークな医療保険を展開している。Pre-paid Medicineは、定額を支払えば、予防から治療、リハビリまでのあらゆるサービスと、必要な場合は海外での治療もカバーされる。Sanitasは、Pre-paid medicineの加入者に対して、グループ傘下施設、およびコロンビア国内2634施設を提携プロバイダとして紹介している。

 Sanitasのビジネスモデルはシンプルだ。Pre-paid medicine加入者から定額の収入を得て、その中で加入者の健康を管理し、利益を出す。加入者が健康になればなるほどSanitasの収益性は高くなる。必然的に加入者の健康管理、疾病予防に重点が置かれている。OSI Netと呼ばれる「デジタルクリニック」(オンラインプラットフォーム)では、医療情報から医療費の管理までを加入者が一覧できるようにデザインされており、加入者自身の健康への意識を高めるしかけを随所に施している。また、仮に病気になったとしても、グループ傘下のクリニック、検査センターを効率化することで、医療費を抑えている。

 従来、病院側は医療費をできるだけ増やそうとし、保険者側は医療費をできるだけ減らそうとする。Sanitasのモデルは、病院と保険者の利益相反をなくし、「加入者が健康になれば、加入者も満足だし、Sanitasももうかる」という形で、ネットワークの利益を一致させている。結果的に、医療効率の高いネットワークとコミュニティが形成されている、というわけだ。

 こうした医療ネットワークモデルは、米国ではおなじみだが、ASEANではなじみがない。繰り返しになるが、その理由は、これまで民間セクターがターゲットとしていたのが、富裕層中心であったためだ。民間セクターの裾野が拡大し、総合病院がビジネスモデルの転換を迫られているタイミングで、SanitasのようなプレイヤーがASEAN参入をもくろんでいることは、ある意味で必然ではないだろうか。

2.4 Rumah Sakit Mata Primasana(インドネシア)

 最後に紹介するRumah Sakit Mata Primasana(RSMP)は、ジャカルタで開業準備中の眼科専門病院だ。RSMPのミッションは、徹底的な業務の見直しによって1人あたりの医療費を抑え、中間層が受診可能な眼科治療を提供することにある。

 眼科領域における業務の徹底的な標準化と治療効率の向上、それによる医療費抑制の成功例としては、インドのAravindが有名だ。Aravindに限らず、インドにおける「病院のインダストリアライゼーション」は世界的に注目されている。詳細はここでは書き尽くせないが、ASEAN各国の民間ヘルスケアプレイヤーも、インドのモデルを深く研究している。にもかかわらず、ASEANで同じようなビジネスモデルが生まれてこなかったのは、旧来型の民間病院のビジネスモデルと、インドのビジネスモデルが、かみ合わなかったからだ。

 特に、ASEANの民間病院グループは、インドのビジネスモデルの優れた点を理解しつつも、富裕層を中心に展開する以上は、その必然性を感じられなかった。同時に、インドの徹底した「医療の産業化」が、ASEANの医療従事者に受け入れられるか、という点でも疑問視されていた。

 RSMPは、ここに目をつけて新規参入をもくろむプレイヤーだ。病院関係者によると、ジャカルタの民間眼科病院と比較して、圧倒的に低価格での医療提供が可能だと言う。上述のような医療従事者からの抵抗はなかったのだろうか。実は、RSMPはインド・モデルを深く研究しつつも、その全てをインドネシアに持ち込んだわけではなかった。院内の動線やオペレーションなど、医療従事者の抵抗がない部分を移植しつつ、診療時間の24時間体制化など、一部では従来型の病院と異なるモデルを導入した。それだけでも、「圧倒的に価格は抑えられる」のだという。

 RSMPがインドネシアの民間病院受診患者に受け入れられるかどうかは、まさに注目すべきトピックだといえよう。医療の標準化で医療費を抑制する専門病院がASEANで存在感を増し始めると、標準化の難しい総合病院のビジネスモデルの転換は、一層急務となる。

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