このようにシナリオ分析のステップはどのようなプロジェクトでも重要である一方、ストーリー作成は必ずしも全てのプロジェクトで取り組むわけではありません。
その理由はストーリーを作ること自体が簡単ではないということもありますが、プロジェクトの目的を踏まえ、作成したシナリオを印象的に伝える必要がなければ、あえてそこまでの工数は割かないというのが現実的な理由です。
そのため、弊社の例では、全社的、あるいは業界全体に長期的に見る重要性を浸透させていくような目的が設定されている場合はストーリーを作成し、それを元にした動画まで作成したようなプロジェクトもあります。一方で、描いた未来を元に、新規事業の案や組織のビジョンなどを考えていくことが目的である場合は、詳細化はシナリオ分析でとどめ、ストーリー作成を飛ばして、次のアクション検討につなげていきます。
このように、組織でシナリオプランニングを活用する場合、それぞれのステップを行うか省くかの判断をする際にも、プロジェクトの目的が基準となります。そのため、繰り返しになりますが、開始時点で必ずプロジェクトの目的を明確にしてください。
シナリオ作成の一般的なプロセス(図1)の最後は「アクション検討」です。
これまで未来のこと(例えば10年後のこと)を考え続けてきましたが、このステップでは、その未来のことを元にして、今からの行動を考えていきます。
具体的なアクションは、プロジェクトの目的に応じて、事業計画として表現したり、ビジネスモデルとして表現したり、アイデアソンという形で事業アイデアを出したりと、さまざまな形を取ります。
ここでは、プロジェクトの目的にかかわらず取り組んでいる「レジリエンスチェック」というステップを解説します。
レジリエンスという言葉は、最近少しずつ一般的になってきましたが、何か想定外のことが起きて影響を受けたとしても、より良い状態に戻ることができる能力のことを意味しています。日本語では「柔軟性」と訳されることもある言葉です。
シナリオプランニングのプロジェクトでは、描いた複数の未来を元にして、1つの未来だけを考えていた場合には想像し得なかった対応策を検討することで、どんな状況にも対応できるような「柔軟性」を持った組織になることを検討するため、このレジリエンスチェックを行います。
具体的には、それぞれの世界が実現した場合の自社にとっての「機会」と「脅威」を考え、それを元に「機会」を最大化し、「脅威」を最小化するための「対応策」を考えるのがレジリエンスチェックで取り組むことです。
この対応策を元にして、先ほど紹介したような具体的なアクション検討を行います。
今回で組織におけるシナリオプランニングの実践方法についての連載は終わりです。
文章にすると比較的あっさりとした内容になりますが、実際のプロジェクトは毎回想像もしないことが起き、気が抜けない日々が続きます。
そのような時間を過ごしていると、シナリオが完成した時点でついつい気が抜けて、あとはどうにかなるだろうという気持ちになってしまうこともあります。
しかし、シナリオプランニングを使ったプロジェクトの目的を考えると分かるように、シナリオが完成してもそれは終わりではありません。むしろ、未来の不確実な可能性も見据えた上で、それらがもたらす脅威を乗り越え、機会を生かすための本格的な取り組みの始まりにすぎないのです。
組織や個人の未来を考えるに当たり、今回の連載が皆さまの参考になれば幸いです。
スタイリッシュ・アイデア代表取締役。産業技術大学院大学 非常勤講師。
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、2013年より現職。シナリオプランニングやプロダクトマネジメントなどの手法を活用し「不確実性を機会に変える」コンサルティングやワークショップを提供。東京外国語大学大学院修了。University of Oxford Said Business School Oxford Senarios Programme修了。
主な訳書に『成功するイノベーションは何が違うのか?』『プロダクトマネジャーの教科書』『90日変革モデル』(全て翔泳社)、主な著書に『世界のインダストリアルIoT最新動向2016』『スマートハウス/コネクテッドホームビジネスの最新動向2015』(インプレス)などがある。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授