岡田氏: 2年ほど前にファーストリテイリングからRIZAPに移ったのですが、最初にやったのが、現場の社員100人にインタビューすることでした。あと、自らボディーメイクやゴルフレッスンなどのRIZAPのサービスを実際に受けてみて、現場の人たちと仲良くなったり、現場が抱える課題を理解したりすることに努めました。ただ、それらの課題一つ一つに対応する必要は、必ずしもありません。というのは、個々の課題は互いに鎖のようにつながっているので、その連鎖をたどって根本的な原因を探り当てるのが自分の役割だと思っているんです。
中野氏: 確かに個々の問題には因果関係がありますから、一つ一つをもぐらたたきでつぶしていっても、「こっちをたたいたら今度はあっちが出てきて……」という具合で、切りがないですよね。何も考えずに、現場のニーズにそのまま応えるようなやり方は、短期的には喜ばれますが、長期的には一貫性がなく行き詰まりや破綻につながってしまいます。
そうならないようにするには、全体を見ながら問題の因果関係を解き明かして、本質的な問題を突き止め、その解決にリソースを集中する必要があると思っています。そういう取り組みは、やはり全体を見られる立場の人がリードしていかないと実現できませんよね。
岡田氏: その通りだと思います。ちなみに私が現場の声を丹念に拾う最大の目的は、皆が仲良くなって、現場の生の声が上に届く風通しのいい企業風土を作りたいからなんです。その点RIZAPは、仕事以外での社員同士の交流が活発ですし、とても雰囲気がいいですね。RIZAPに入ったばかりの頃、瀬戸さんに「うちの連中、いいやつらが多いでしょう!」とうれしそうに言われて、「ああ、とてもいい会社に入ったな」と思ったのを覚えています。
中野氏: そもそも、人となりを知らない人に向かって問題を共有したりするのは、ハードルが高いですよね。さらに仲が悪かったりすると、報酬以上のところで頑張るモチベーションも失われる。「この人達と一緒に頑張る気がしない。おうち帰りたい」みたいな。なので、適切に変化を続ける組織としては心理的安全性は本当に重要だと思います。
私がクックパッドに入った当初、一番感心したのはオープンな企業風土でした。イベントも多く、そこで新しい人に合うのが楽しかった。また、こんなオモシロ人材がいるよと(笑)。
ただ、事業が急成長する過程で、会社の雰囲気やカルチャーはどうしても変わってきませんか?
岡田氏: それは正直ありますね。ただ、根本にあるカルチャーさえ維持できれば、変わっていくのは決して悪くないことだと思っています。米国の企業は、自社のカルチャーと相いれない人は決して入れないし、入れてしまったとしても、合わないと分かった時点ですぐ辞めてもらいますよね。その点、日本企業は、カルチャーにそぐわないような人でも優秀な人だと思うと割と入れるし、そのくせ米国企業のように簡単に辞めてもらうことができないので、ハレーションを起こしやすい構造を自ら作っている面があります。
中野氏: 以前、Netflixさんのお話を聞いた時に、まさに「カルチャーを重視するというのはどういうことか」を目の当たりにしました。徹底していますよね。
カルチャーを共有できない人同士では、コミュニケーションコストが掛かったり、単純に仲が悪くなって社内が分断してしまったりする。何を言われるか分からないから問題も隠しますね。何を決めるにも交渉や根回しの連続で、結果として力技で押し切った無理な施策になったり、誰も得をしない施策になったりする。押し切られた方には当然、遺恨が残り、恨み辛みが蓄積していきます。
そうなると、変化のスピードが落ちるだけではなく、そこで働くことがストレスになってしまいます。例えば、部署を横断したコミュニケーションを求められるプロジェクトに参加した人が、板挟みになって心を病んだり、倒れたりするという話はよく聞きます。結局、誰にとっても「割に合わないから」という話になって、変化が起こらない。
そんな状態で海外に出ていっても、“カルチャー維持のためには解雇も厭わず、トップスピードで走る海外企業”と、まともに勝負できるわけがないと思います。
【後編に続く】
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授