異業種発・日本発の医療機器イノベーションの創り方視点(3/4 ページ)

» 2019年02月20日 07時09分 公開
[藤原亮太ITmedia]
Roland Berger

4、押さえるべき要諦(図B参照)

アイデア出し〜事業コンセプト策定〜PoC(Proof of Concept)まで

 ステップ1における領域特定と製品コンセプトの具体化が最も難しいが、教科書的には、ニーズ・シーズの両面から有望案を幅出しし、検証・進化のサイクルをスピーディーに回すに尽きる。プロトタイプを実際に医師に使ってもらい、フィードバックを活用することで製品コンセプトを固めることが結局成功への近道となろう。

 イノベーション探索の起点の1つ目は、長年の既存事業で磨き上げた保有技術、保有知財をベースに、医療機器用途で生かせるシーズの探索がある。もともと異業種からの医療機器参入成功例として有名な帝人ナカシマメディカルの整形外科金属インプラント、朝日インテックの心疾患カテーテル、消化器内視鏡ガイドワイヤーのパイオラックスなど、金属や樹脂系の高度な加工技術がベースとなっている。

 ヘルスケア業界に関わらず、ある領域・用途での特許や知財が、他領域・用途での活用可能性を秘めている。「医療機器はリスクが高いから、あるいは承認が難しいから、リスクの低いクラスIから」といった声も聞くが、朝日インテックの例が示しているように、医療機器のクラス分類を問わず、イノベーションを必要としているメディカルアンメットニーズを切り取るべきである。必要な機能・能力は協業によって補えばよい。

 2つ目は、臨床現場でのメディカルアンメットニーズ起点でのテーマ探索である。手術時および術後の負担を下げる低侵襲化のトレンド、治療後のQOL (クオリティー・オブ・ライフ) 向上を重視する流れ、患者の医療知識・リテラシーの向上などを受け、既存プレイヤーが寡占している市場においても、メディカルアンメットニーズは必ずある。自社の技術とメディカルアンメットニーズ、起点はどちらでもよいが、双方向的に繰り返し検証を重ねながら、製品・事業コンセプト案に仕立てていく。

 自前でのテーマ探索に加え、昨今はやりのオープンイノベーション(インバウンド型) も積極的に活用すべきであろう。具体的には、技術シーズと資金ニーズを持つ大学・研究機関・医師との協業である。メディカルアンメットニーズを捉え、技術の種を持ち、イノベーション仮説に取り組む大学や研究機関・医師で、資金ニーズを抱えている案件は多い。こうしたイノベーションの種を、既存技術で、技術玉成や量産技術確立の支援によって、単なる資金供給に止まらない事業会社ならではの事業化加速が可能になる。

製品開発・臨床試験〜上市まで

 製品コンセプトが固まれば、薬事申請に向けた研究開発ロードマップの策定である。薬事申請の詳細プロセスは本稿では割愛するが、ここで重要なのは、承認までの時間短縮と、新しい手技・新しい医療機器としての償還価格の設定である。強かに、用意周到に対応しないと、貴重な時間的資源と利益を逸することになりかねない。

 また臨床試験の設計段階から、KOL(Key Opinion Leader)を巻き込むことが上市後の市場浸透スピードを決定づける。販路構築も重要要素だが、たとえ疾患や手技に対する知識、使い方などの製品知識を備え、行動力と提案力に長けた営業組織を作り上げても、やはりアカデミックへのアピールが肝で、かつそれはテーマ探索段階、臨床試験段階から決まっている。既存事業における医療機器メーカーの営業力は、立会いなどによる医師のサポートを含め、競争要因としての貢献は極めて大きいが、異業種からの新規参入時に、経験年数と規模が効く競争はしてはならない。

 日本のヘルスケア市場は、医療機器全体で3兆円規模の市場、米国に次いで世界第2位、イノベーションの出発点としては、日本企業にとって最適な場だが、個別製品の市場規模は大きくて数十億円〜百億円規模。やはりスケールアップは海外展開だ。市場規模が大きく、市場の透明性が高く、医療インフラ・保険制度が充実しているアメリカ、欧州主要国の優先度が高い。イノベーションの方向性いかんによっては、例えば、アジア人の骨格や血管など形状によるイノベーションの場合はアジアということになるが、透明性や単価の観点で難易度は上がる。製品コンセプト策定段階で、海外展開の筋道も見立てておくことが必須となろう。

 また、海外展開の際は、パートナーになりうる医療機器メーカーとの協業が最善の選択。当該疾患領域で現地営業リソース、KOLへのアクセス、卸ネットワークを持っているため、たとえ短期的な利益率を犠牲にしてもパートナーと組んだ展開が望ましい。実績がない中で海外医療機器メーカーとの協業の難易度は一般的に高いため、現地卸と期間と条件を縛っての参入も視野に入れる必要がある。資本力を生かせば、米Globus Medicalのように、買収で流通力・営業力を一気に獲得するのも一案。いずれにせよ、Time to marketとスピードを重視した事業展開が肝要であろう。

押さえるべき要諦(ステップ1)

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