それによると、彼ら企業経営者が指摘したデジタル変革の失敗要因トップ10の中で、技術的な要因に関するものは「デジタル・テクノロジーの理解不足」「ITインフラの欠如」「データの欠如」の3つしかなく、それ以外のほとんどが、人材や組織のカルチャー・プロセスに関する項目となっています。
つまり、日本企業の経営者以上に、世界の多くの経営者はDX推進のカギとなるのは「人と組織」の問題であると認識しているのです。特にリーダーのコミットメントは重要で、このレポートでも「経営者の強い覚悟がなければ変革はなし得ない」と指摘しています。
その一方、多くの日本企業からは「DX改革を進めている」「戦略は定めた」「トップが号令している」などといった声が聞こえてきますが、それが現場の社員たちの心には落ちておらず、小手先のデジタル化で対応するだけで、結局、企業全体としては何の変革も起こっていないことが少なくありません。
実際、私が現場で見ることが多いのは、「DX推進」ばかりに目がいってしまい、「そもそも自分たちの会社がどこに向かい、どんなDXを実現したいのか」「どんな人材がそれを担うべきなのか」「そのために組織はどう変わるべきか」といった本質的な議論がないまま進んでいる、という状況です。
そのため、「DX推進と言われても、どこから手をつけたらいいのか分からない」「DXに取り組んでいるが、うまく進まない」といった悩みを抱えている方が多くいるのではないかと感じています。
では、どのようにしてDXを「人と組織の変革」として進めていけばいいのでしょうか。私はこれまでの経験から、DX推進における日本企業の問題は、大きく次の3つに集約されると考えています。
1、DXの本質について、経営トップで議論されているか?
2、そもそもの企業ヴィジョンをアップデートしているか?
3、新しいヴィジョンとDXにふさわしい人と組織を作ろうとしているか?
1つ目の「DXの本質について、経営トップで議論されているか?」ですが、まず言っておきたいのは、「DX=デジタル化」ではないということです。デジタル化はあくまでもDXの大前提であり、「データとデジタル技術が前提になる時代が来ているとしたらどうなるか?」を問う議論を、経営トップがしていく必要があるということです
2つ目の「そもそもの企業ヴィジョンをアップデートしているか?」については、「データとデジタル技術が前提」となり、ビジネスの在り方が大きく変わろうとしているなか、「自分たちの会社はどんな未来を実現して、どんな顧客価値を提供しようとしているのか?」について、自社なりの考え方を確立しておく必要があるということです。そして、アップデートされたヴィジョンを実現するために、DXを推進していくべきなのです。
そして3つ目の「新しいヴィジョンとDXにふさわしい人と組織を作ろうとしているか?」は、自社が目指したいヴィジョンとDXの本質に照らした、大きな人材戦略を持つ必要があるということです。
そのためには、人材の採用・育成・評価が、新しいヴィジョンやDXの実現を十分に意識したものになっている必要があり、採用・育成した人材が活躍できる組織の文化や事業プロセスづくりが大切になってきます。
このようにして見ていくと、DXを実現するためには「全社的な」取り組みが必要となることが分かるかと思います。一朝一夕にいくものではありませんが、いずれにしてもまずは、「ヴィジョン」や「人と組織」という視点を会社のトップが持つ必要があるのです。
Institution for a Global Society(IGS)CEO
慶應義塾高校・大学(経済学部)卒業後、東京銀行に入行。フランスのビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)でMBA、グランゼコールHEC(パリ)で統計学の修士号を最優秀賞で取得。筑波大学で最適化と極値論の研究を行い博士号取得。2000年世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズでAIを利用したモデル運用に携わる。35歳にして最年少マネージングダイレクター、日本法人取締役に就任。2010年に、「人を幸せにする評価で、幸せをつくる人を、つくる」ことをヴィジョンにIGSを設立。ビッグデータとAI、そして脳科学の知見を基にした、科学的かつデータドリブンなDX組織改革コンサルティングを大企業中心に行っている。2021年12月29日にマザーズに上場した。著書に「日本企業のポテンシャルを解き放つ――DX×3P経営」(英治出版)がある。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授