スイスに本社を置くボサード(Bossard)という企業をご存じでしょうか。1831年に創業した老舗のネジ商社です。
2000年代初期まではネジの調達と納品がメインでしたが、「製造業のグーグルを目指す」と宣言して組織全体でDXに取り組み、その結果、あのテスラのメインパートナーの座を勝ち取り、部品の管理業務全般を請け負うほどにまでなっています。
ボサードのDX推進の裏には、このままでは激しい競争の中で立ち行かなくなるという、経営陣の危機感がありました。そこで、データサイエンティストやデータ生成を支援するエンジニアを急速に増やし、「スマートビン」と呼ばれる、センシングやビッグデータを組み合わせた部品管理システムを開発。扱う商品をネジ以外にも横展開していったのです。
これにより、さまざまな製造業の企業が、ネジのような単価の安い部品だけでなく高コストの部品も、彼らの仕組みを使えば部品管理の効率が良くなるとして、このサービスを利用するようになりました。
このようにしてボサードは、世界の製造業から必要とされる、在庫管理のプラットフォーマーに変身し、成功することとなったのです。
また金融機関のなかにも、DXによって大きく変貌、成長を遂げているところがあります。それが、「フィンテック」と呼ばれる、金融とITを結び付けた革新的な金融商品やサービスを提供している金融機関です。
このように、DXは何もIT企業だけの専売特許ではなく、製造業やサービス業など、あらゆる産業でこれから必須となっていくものです。日本の企業では、まだそのあたりをしっかりと理解していないところが多いように見受けられます。
欧米でDXに成功している伝統企業には共通点があります。それは、「デジタル改革をどう進めていくか」ではなく、「新しいヴィジョンに向かってDXに強い人と組織をどう作るか」を意識していたという点です。DX推進に関して日本の企業が遅れている点は、まさにここなのです。
例えば上で取り上げたボサードでは、ネジ商社から部品とそれに関連するデータが集結するプラットフォーマーへとビジネスモデルを変えていくというヴィジョンを持ち、DX化を推し進めるためにエンジニアやデータサイエンティストの採用を増やして社内の組織を変えていったのです。
大手外資系コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーが2020年9月に発表したレポート「デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ」によると、企業の改革全般における成功率が30%程度とされるなか、デジタル変革の成功率はその半分の約16%という厳しい結果になっています。特に、伝統的な業界での成功率は4〜11%にとどまっています。
そして、同レポートでインタビューに答えた世界のグローバル企業の2135人の経営者たちによると、デジタル変革における大きな障壁は「技術の不足」ではなく、圧倒的に「人と組織(文化、人材、組織面)」だというのです(下図参照)。
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