「好きなことを仕事にしたい」と願う人が陥りがちな3つの思考「夢がなかった」から成功できた起業家からのアドバイス(2/2 ページ)

» 2022年11月01日 07時00分 公開
[立花佳代ITmedia]
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 そんなちょっとした楽しみから、仕事への意欲や、アイデアやチャンスも少しずつ生まれてくるのではないでしょうか。

 「好きでもない仕事をしているから」とはなから諦めていると、その時間のなかに楽しみを発見しづらくなります。それは、すごくもったいないことではありませんか? 仕事の時間だって、まぎれもなく自分の人生の大切な時間です。自分を大切にして、少しでも「好き」を見つけていくことが、仕事だけでなく人生そのものを楽しむ姿勢につながると思います。

世の中のためにではなく自分が楽しい仕事を

 また、人生の中には、就職や転職などの人生の転換期において、自分の中の「好きなこと」とか、「やりがいのあること」について改めて考え直す場面が訪れることもあるでしょう。そのときには「世の中に役立つ仕事」とか「社会的に認められる仕事」というような他人の視点を考えすぎないようにすることが大切だと私は考えます。

 やはり人間ですから、他人からどう思われるかを少なからず意識しがちです。「他人のため」という考え自体はとても素晴らしいものだと思います。ただ、私は、そこに縛られる必要はないように感じています。もちろん他人の迷惑になるような仕事はするべきではないと思いますが、他人の幸せの前に考えるのは、自分の幸せではないでしょうか。また、他人のためにということを考えると、どうしても物事が大きくなりすぎて、一歩踏み出せないということも起きるのではないでしょうか。

 私がインドでアクセサリーを作ることを考えたのには、いくつかの理由があります。まず私自身が、もともとアジアの民族系ファッションが好きだったのです。家業を手伝っているときから、シンガポールやタイやマレーシアからファッションアイテムをよく仕入れていました。

 このとき、インド産の刺しゅうアイテムやガラスビーズなども扱った経験から、「インドのアイテムは技術もあって、ユニークなものがあるな」と常々、感じていたのです。

そしていつの日か、日本のファッションに感度が鋭い女性たちが、納得して着けられるインドのアクセサリーを作りたいと思うようになっていました。

 なにより、私自身がそんなアクセサリーがほしかったのです。「ならば、自分で作ってしまおう」そうして、いわば自分が楽しむために、ほかのどこにもない質の高いオリジナルのアクセサリーをつく作ることを思い立ちました。

 原点が、「自分が楽しむ」ということだったのがうまくいった秘訣だと思います。他人を幸せにしたいとか、他人にいい格好をしたいとか、他人を行動の動機づけにしてはじめたことは長続きしないし、うまくいきにくいと思います。

 そう考える理由は2つあって、まず1つは、自分が楽しいということが、継続の1番の活力になるからです。もう1つは、他人の力を借りないと、ものごとを成し遂げることはできないからです。

 自分でなんでもできる人だったら違うのかもしれませんが、少なくとも私1人の力なんて微々たるもので、まわりの人間の力に頼らないとなにもできません。だからこそ、相手も同じように「楽しそう」「やってみたい」と本気で思ってもらうことが大切です。

自分が心の底から「楽しい」「やりたい」と思ってもいないことを、相手に「楽しい」「やりたい」と思ってもらうのは難しいのではないでしょうか。

 これができたらこんなすごいことができる、こんな楽しいことになるということを、心から相手に伝えてはじめて、相手も一緒になって協力してくれて、ものごとはうまくいくはずです。そのため、私の行動の基準はいつも「自分が楽しいと思えるかどうか」にあります。

 そんな思いで事業を進めてきて、想定していなかったことが起きました。それは、インドでのビジネスを通じて現地の女性たちと触れ合い、彼女たちの生活水準の向上にも貢献できたことでした。

 村では女性たちが手工芸で家計を助けていますが、村のインフラはまるで整っておらず、みんなとても貧しい生活を送っています。それでも彼女たちはいつも明るく、毎日たくましく暮らしていました。

 そして現在では、日本市場向けの製品を作るために多くの職人たちが活躍し、産業の少ないインドの村の生活水準の向上につながっています。現地に行くと、自分たちの技術で生活がよくなることを誇りに思ってくれている様子が伝わってきます。

 私たちも、自分たちのためにはじめた仕事をとおして彼女たちの役に立てていることがとても幸せで、これからも楽しんで、一緒に仕事を続けたいと思っています。やはり、作る側も仕入れる側も幸せであることが、「好きを仕事にする」ためには大切なことではないでしょうか。

著者プロフィール:立花佳代(たちばな・かよ)

エシカルアクセサリーメーカー、株式会社スプリング代表取締役

1966年、神戸三宮高架下商店街で小売店を営む両親の長女として生まれる。大学卒業後、渡英。23歳で結婚し、一女をもうけるも、就労意欲の乏しい夫に嫌気がさし、27歳で離婚。貯金0の状態から、コツコツとお金をためて、株式会社スプリングを設立。インドの伝統工芸品の美しさに心を奪われ、「インドの小さな村の伝統工芸技術を使った、オンリーワンのアクセサリーブランドをつくりたい」という思いから、2008年、インドの小さな村でのオリジナルアクセサリー開発に着手。約5年の苦労の末、2013年「MAYGLOBE by Tribaluxe」(メイグローブ バイ トライバラクス)を立ち上げ、話題となる。それまで産業のなかった村に産業を与え、女性たちの自立をうながすことにつながったことで、近年は、いちはやくSDGsに取り組んできた企業、エシカルなアクセサリーメーカーとして注目されている。


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