これからの日本の自動車業界は、レンタカーやカーシェアリングなどの拡大により、クルマの台数は一定数確保できるが、少子化や若者のクルマ離れなどにより、オーナーカーは確実に減っていくことが予想される。またこれからの自動車は、自動運転に移行していくため、整備の考え方、在り方が大きく変わるとみられている。
「整備不良の自動運転車両には、だれも乗りたいと思いません。これまでの自動車の整備は、半年ごと、1年ごとに行われてきましたが、自動運転車両は日々のメンテナンスが大切になります。自動運転化が進んでいる航空機は、空港に着くと、隅から隅まででメンテナンスされ、1カ所でも不具合が見つかると次のフライトを行うことができません。自動運転車両も同様の整備が求められるようになるはずです」と則末氏は話す。
まるでSF小説に出てくる話のように聞こえるかもしれないが、夜間、車両を利用していない時間帯に、自動運転でオートバックスまで来て、メンテテンス後に再び自動運転で自宅に戻る仕組みも考えられる。
「オートバックス事業はビジネス全体の75%を占めていますが、その中で物販は60%程度で、残りはメンテナンスです。現在はカー用品を販売するビジネスが大きいのですが、今後はメンテナンスの質を高めていくことでビジネスを拡大したいと考えています。また社用車を管理するビジネスも強化する計画です。オートバックスは、コンシューマ向けのサービスというイメージがありますが、B2B領域のメンテナンスにも取り組んでいきます」(則末氏)。
さらに今後は、データ活用の領域にも注力していく。具体的には、メンテナンス情報をいかにデータマネジメントに生かせるかが重要になる。最近の自動車はコンピュータで制御されているので、コネクタに接続することで情報を吸い上げ、車両の状態や、どの部品を、いつ、どのように交換したのかといったことが容易に把握できる。こうしたデータを管理・分析することで、メンテナンスのタイミングを顧客にお知らせすることも可能になる。
則末氏は、「こうした取り組みは自動車業界全体で行うことが必要です。メーカーは顧客を囲い込みたいと考えるかもしれませんが、メーカーは自社のクルマの情報しか持っていません。オートバックスでは、全てのメーカーの情報を得ることができる強みがあります。自動車産業全体の今後を考えていくことが、データマネジメントにおいて重要になるでしょう」と話している。
オートバックス本社の壁には、1990年代に構想されたオートバックスが目指す「未来予想図」が描かれている。未来予想図には、世界中にクルマ好きのユートピアを作るというオートバックスの夢が描かれている。興味深いのは、すでにITを活用している風景が描かれていることだ。ABDiは、さらなる内製化を推進し、オートバックスセブン向け、FC向けのDXを進めるとともに、近い将来、自動車業界におけるDXを推進するためのプラットフォーマーになることも視野に入れている。
こうした同社のDX推進の取り組みは、東京・豊洲のグループ本社に設置された「オートバックス デジタルラボ」で体感することができる。オウンドメディアの「暮らしとくるまと「MOBILA(モビラ)」、飲酒運転を防ぐためのアルコールチェックをクラウド経由で実施できる「ALCクラウド」、店舗での待ち時間を顧客のスマートフォンで確認できる「待ち時間予約システム」、店舗でタイヤ交換や車検、カーナビ取り付けなどの案内受付システムの「受付番号発券機」、スーパーなどでも利用されている電子棚札「tagEL(タグエル)」、デジタル障がい者手帳「ミライロID」と連携させることで、障がい者手帳をお持ちの方のみ駐車できるようにするサービス「VEEMO Welfare」などが展示され、その多くが実際に操作できる。
中でもひときわ目を引くのが、人型AIアシスタント「レイチェル」だ。店舗のスタッフに代わり、顧客の要望に対応してくれるバーチャル接客サービスである。会員情報が登録されていれば、車種や整備情報を解析し、最適な商品やメンテナンスサービスを提案することもできる。これにより、人手不足の解消や店舗スタッフの負荷軽減が期待できる。
則末氏は、「オートバックスでは、早い時期から自動発注や在庫管理、EDIなどの仕組みを構築し、活用してきました。現在の取り組みは、未来予想図に描かれていることの実現に向けて実践しているだけです。自動車そのものは、100年に1度の変革期といわれるくらい劇的に進化していますが、自動車業界のサプライチェーンは古い体質のまま変わっていません。そのためこの業界では顧客の信頼を裏切るような残念な事件も起きています。このサプライチェーンを、よりよい状況に変革するのが、ABDiの次のミッションです。少子化で人材の確保も難しい中ですが、DXにより効率化をさらに進め、自動車業界の発展に貢献したいと考えています」と話す。
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エゼクティブのプロデューサーを務める。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授