本田技研工業のDXはボトムアップとトップダウンで“Hondaらしく推進”デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)

» 2025年02月26日 07時00分 公開
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伴走支援により、1年間で約120人のビジネス部門のRPA開発者を育成

 トップガン育成の後工程で肝となるだろう戦略、「DXツール実装まで一気通貫の成功体験の提供」では、各ツール導入の手順を具体的に紹介し、伴走支援でツールによる業務改善に対する心理的ハードルを下げ、成功体験を提供するための施策を実施している。

 「ビジネス部門における開発人材を育成することを目的に、DXツールの一つであるRPAを導入する研修を実施しています。この研修では、全ての受講者がRPAにより各自が1つの課題を解決できるようになるための、はじめの一歩を踏み出すまでの伴走支援を提供し、成功体験を積み重ねることで自信をつけてもらうことを目的としています。これにより、1年間で約120人のビジネス部門の開発者を育成し、スキルを可視化しています」(木村氏)

 また、全社のDXイベント「Honda DX Expo」を3年連続で開催したほか、トップガン同士の交流会「TopGun MeetUp」の開催、ツール活用促進のワークショップの開催、現場のユーザーとの技術交流の場となるコミュニティの立ち上げなどを通じて、対話・交流の場を提供した。こうした取り組みでODX推進を各部門に浸透させることで、社員を巻き込み、興味を持ってもらうための取り組みが軌道に乗り始める。

 DXツールのコミュニティ参加者数が1万人以上、DXツールの実装数が4500件以上、DXツールのイベント参加者数が約4700人など、現場の自律的アクションが増加し、ツール活用度も増加した。最終的に年間約270万時間の削減効果につながる(2024年9月時点の累積効果)。30を超える団体が各部門で生まれ、自発的なODX活動を推進し始めたのも想定を超える成果だ。

DX企画相談会により年間3万時間の余剰時間の創出を目指す

 2021年からの3年間、 Hondaではトップガンを育成し、現場で使えるツールを提供することで、ペーパーレス化やタスクの自動化、集計作業の簡易化など、ODX推進による業務効率化に取り組んできた。こうした現場が自律的にデジタル技術を活用する「市民開発」の実現は、最終的なビジネス変革のための過渡期的な取り組みであり、自動車ビジネスが変わり続ける中で、変化に対応していくためには避けては通れないという。さらに今後は、AIやデータを活用した取り組みを現場が当たり前に実現できることが必要であり、現場のデジタルリテラシーをさらに向上させたDX推進が重要になる。そのために発足したのが、「DX企画相談会」である。

「DX企画相談会運営」を通じたDXの実現

 「DX企画相談会は、現場のDX推進の困りごとに対し、進め方や実現方式を提案する機能です。企画案受付・確認から実現手法検討・決定、施策の実装の着手まで、DX企画の進め方や実現方式を提案することで、より大きな効果を創出することを目的としています。DX企画相談会により、DX推進の意欲が高い社員への支援を強化し、今後のビジネス変革を支えられるデジタル人材を育成することを目指しています。例えば、ビジネス部門による企画書作成の支援やビジネスプロセスの整理、最終的なツールアーキテクチャの提案など、ビジネス部門が苦手とするツール活用のための企画立案も支援しています」(木村氏)。

 2024年8月現在、約5カ月の間にDX企画相談会への相談案件数は約130件。さまざまな業務領域において最適なアーキテクチャを提案し、施策を実装することで、年間3万時間の余剰時間の創出を目指している。安藤氏は、「DX企画相談会は、これまでの取り組みをさらにスケールアップさせるものです。これまでの3年間、まずは2〜3課ほどからスタートし、多くのユーザーの相談に乗ってきましたが、それをさらに大きく広げていくのがDX企画相談会です。これまで地道に取り組んできたODXの取り組みをビジネス革新につなげることが狙いです」と話す。

 日本の製造業は強い現場によって支えられてきたことはよく知られている。 Hondaもその代表的な企業の1社だ。「 Hondaはボトムアップとトップダウンの良いバランスで成長してきた企業です。そのためDX推進もトップダウンによる戦略だけでは進まない面もあります。そこでDX推進の意欲の高い現場の社員のデジタル化の支援を強化し、小さな成功体験を積み重ねることで市民開発を底上げし、最終的にはビジネスを変革できる人材に成長してもらう取り組みを推進してきました。トップダウンとボトムアップの“いい塩梅”を模索してきた3年間であり、この姿勢を変えることなく今後もさらなる進化を目指していきます」と木村氏は話す。

聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)

Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エゼクティブのプロデューサーを務める。


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