【第1回】パーパスが浸透した強いチームをつくる、たった1つの秘訣「働きがい改革」に本気の上司がチームを覚醒させる

世界の多くの企業がパーパスの明確化と、パーパスに沿った経営をいかに進めるべきかに注力しているが、日本企業には、すでに公益重視の理念が宿っており、パーパス経営とは日本型経営の原点ともいえる。

» 2025年09月24日 07時06分 公開
[前川孝雄ITmedia]

世界が注目するパーパス経営は日本型経営の原点

『「働きがい改革」に本気の上司がチームを覚醒させる: 上司も部下も幸せになるマネジメントの極意』

 多くの企業が自社のパーパス(目的、存在意義)の明確化と、パーパスに沿った経営をいかに進めるべきかに注力しています。

 それは、SDGs(国連の持続可能な開発目標)やESG(環境、社会、企業統治)重視の観点で、企業経営のあり方が根本から問い直されていることと軌を一にしています。 企業は株主利益第一の「株主資本主義」から脱し、従業員や取引先、顧客、地域社会などあらゆる利害関係者の利益に配慮し、自らの社会的パーパスを果たすべきと再認識され始めたのです。

 この世界的な潮流から、日本でもパーパス経営への関心が高まっています。あらためてパーパス経営といわれると、新しい概念と思われがちです。しかし、私は何ら目新しいものではないと考えています。

 そもそも、どの企業にも設立の目的である経営理念や創業の精神があり、それに沿ったビジネスモデルで事業やサービスをつくってきたはずです。ところが資本主義社会のもとでは、どうしても利益第一主義に傾きがちとなり、社会的弊害が顕在化してしまいました。そこで、あらためてパーパス重視が唱えられているととらえるべきでしょう。

 元来、日本では渋沢栄一の「論語と算盤」や、伊藤忠商事の創業者・伊藤忠兵衛の「三方良し」など、社会貢献型の経営理念や実践が尊ばれてきました。

 明治期に欧米企業を参考に「カンパニー」をつくった際にも、単に営利のために資本金を集め投資する「資本主義」ではなく、公益追求の目的達成に最も適した人材と資本を集め、事業を推進する「合本主義」(渋沢)にこだわりました。先人が築き上げ培ってきた日本企業には、すでに公益重視の理念−パーパス−が宿っていました。すなわち、パーパス経営とは日本型経営の原点であるともいえるのです。

若手社会人が語った理念経営の大切さ

 私が長年大学で担当するキャリアデザインの授業の中で、教え子だった20〜30代の若手社会人2人を招き、就活に向かう学生たちに仕事のリアルを語ってもらいました。名づけて「キャリア白熱教室 〜教え子が教える連鎖の好循環へ!」。

 ゲストの30代女性Mさんは、20代で就職した教育系企業のリーダー職を務めた後に転職と独立を経験し、フリーランスで仕事をしています。一方20代のT君は、大手企業に就職し、その後、外資系企業に転職。営業職の傍ら副業でコーチング業も営んでいます。

 パネルトーク形式で、2人が仕事を通して得たものや、目指す目標やキャリア、企業選びへのアドバイスなど、自由に話してもらいました。

 印象的だったのは、2人が各自の体験から「理念に共感できる企業を選ぶことが大切」と強調したことです。

 企業が掲げる理念やビジョンは、抽象的で綺麗な言葉にまとめられていて、一見似たように見えがちです。でも、それらをよく見比べて企業情報とも照らし合わせていくと少しずつ違いが見えてきます。さらに、OB・OG訪問などで実際に働く人に接し、深く話を聴かせてもらえば、掲げた理念が本物かどうかも分かってきます。そして、働く自分自身が「自分の中で譲れないもの」を持ち、貫くことが大切だと、力強く語ってくれました。

 若い教え子の2人が、パーパス経営を重視し、自分のキャリアビジョンとしっかり関連づけて働いていること。そして、学生たちがその後ろ姿に強く感化されて見る見る目の色が変わっていく様子に、私は感無量でした。

パーパス経営は全ての組織リーダーが取り組むべし

 社会課題が深刻化する中で、多くの企業が、自らの組織理念に立ち返り新たなパーパスやビジョンを打ち出し、改革に歩み出そうとしています。ところが、時に現場では、経営が推し進める取り組みを「上から降りてきたもの」ととらえがちです。

 しかし大切なことは、管理職をはじめ現場で働くリーダー全てが、経営者任せにせず、自社やチームのパーパスは何かを主体的に考え、見出すことです。そして、それを自分自身の言葉でメンバーに伝えることが必要です。

 改革を進める企業では、しばしば社内や店頭に掲げたスローガンを目にします。「全てはお客様のために」など、素晴らしい内容です。一方で気になるのは、その職場のメンバー全員がこの言葉を自分自身の中に落とし込み、具体的な日々の仕事や行動に表せているのかどうか。毎日の朝礼での唱和や組織上層部からの指示で貼り出しているだけではなく、自分事にできているかです。

 いくら経営トップが優れたパーパスやビジョンを掲げても、現場にいくほど目先の売り上げにきゅうきゅうとしがちです。経営は長期視点で考え、現場は短期目標で行動することから生じるズレです。管理職には経営と現場がしっかり対話できる組織を目指すことが求められます。現場の社員一人ひとりがお客様からの感謝を得ながら働きがいを実感できる、真っ当に働ける職場を創り出すのです。顧客・社会貢献(公益)は自然と発揮できるものではなく、顧客や社会のニーズに耳を傾け、現場で創り上げていくものです。現場のリーダーとメンバーが一丸となって、常に自社のパーパスを念頭に日々の仕事で磨いていくものです。

 組織のパーパスをメンバー間でしっかり共有し浸透させていくには、組織リーダーである管理職自身が、日々や週次の定例ミーティングなどの折々に、また普段の日常会話の中で、双方向で対話していくことが大切です。自社での具体的な仕事を取り上げ、理念に照らしてどう考え、改善や工夫をしていくか、語り合うことです。

 この機に、ぜひ皆さんも「自社のパーパスとは何か?」をあらためて問い直し、自身のマネジメントに活かす挑戦をしてみませんか。


※本稿は前川孝雄著『「働きがい改革」に本気の上司がチームを覚醒させる: 上司も部下も幸せになるマネジメントの極意』(合同フォレスト、2025年8月)より一部抜粋・編集したものです。「管理職は罰ゲーム」とやゆされる昨今、いかにして経営者・管理職自身と職場に「働きがい」を取り戻すか。―そのヒントを得たい方は、ぜひ同書をご参照ください。https://www.feelworks.jp/booklist/bookinformation/250729/

著者プロフィール:前川孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/株式会社働きがい創造研究所会長)

人を育て活かす「上司力(R)」提唱の第一人者。1966年兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学(現大阪公立大学)、早稲田大学ビジネススクール卒業。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て2008年に(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに研修事業と出版事業を営む。「上司力(R)研修」シリーズ、「50代からの働き方研修」、「ドラマで学ぶ『社会人のビジネスマインド』新入社員研修」などで500社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会理事なども兼職。著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)、『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『50歳からの人生が変わる 痛快!「学び」戦略』(PHP研究所)など約40冊。最新刊は『「働きがい改革」に本気の上司がチームを覚醒させる: 上司も部下も幸せになるマネジメントの極意』(合同フォレスト、2025年8月)。

30年以上一貫して働く現場から求められる上司、経営のあり方を探求しており、人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆