その代表的な例が日立製作所です。日立は2000年代に経営危機に陥り、2008年には最終赤字7,873億円という深刻な状況でした。しかし2010年代後半からの抜本的な改革によって、日本を代表するグローバル企業へと再生を遂げました。
数字を見れば、時価総額は2016年3月時点で約2兆5,348億円でしたが、2021年には4兆8,389億円、そして2024年には約14兆円規模に達し、日本企業の時価総額ランキングで上位に位置しています。売上高も2024年度に9兆7,287億円、当期純利益6,157億円と、完全に立ち直りました。
この復活の戦略として、日立は非中核事業を整理してデジタルや社会インフラに集中し、「Lumada」で顧客と共創するデータ経営を進め、国際的な多様性と透明性を備えた経営体制へと進化しました。これらの構造改革が復活の主要因であることは間違いありません。
しかし同時に、日立は次に挙げるような日本的経営の強みも維持し続けたことを見逃してはなりません。
第1に、長期的視点の経営です。2016年以降、当時の東原敏昭社長が中期経営計画を掲げ、社会インフラと環境技術を柱とする10年先を見据えた経営へと舵を切りました。短期利益よりも社会価値と持続的成長を重視する姿勢を維持したのです。
第2に、品質と現場主義の文化です。英国の鉄道車両や電力制御システムの開発では、技術者が顧客現場に常駐し、「現地現物」で課題を解決する姿勢を今も守り続けています。この現場力こそが、日立ブランドの信頼を支えています。
第3に、協調とチームワークです。2021年以降に掲げた「One Hitachi」方針のもと、約28万人の社員が部門や国境を越えて連携し、共通理念と評価制度を整備しました。これにより、全社的な知識共有とシナジーが生まれています。
このように日立は、「選択と集中・デジタル共創・多様性経営」という構造改革を大胆に進めながらも、「長期志向・品質重視・協調性」という日本的経営の強みを捨てずに活かしてきました。その結果、失われた時代を乗り越え、復活した"確固たる日本"企業となったのです。
私がエグゼクティブMBAプログラムで学んで気づいたことは、日本企業が本来持っていた強みを、現代的な経営手法と組み合わせることで競争力を取り戻せる可能性があるということです。日本的経営を全否定するのではなく、その本質的な価値を見極め、時代が求める経営手法と融合させる。これこそが、これからの日本企業に求められるリーダーシップなのではないでしょうか。
1972年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経て1998年にソフトバンク入社。2000年ソフトバンク社長室長に就任。孫正義氏のもとで、マイクロソフトとのジョイントベンチャーや、日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収、およびソフトバンクの通信事業参入のベースとなった、ブロードバンド事業のプロジェクトマネージャーとして活躍
2006年に「トライオン株式会社」※を設立。2015年に、ビジネスレベルで通用する英語を1年でマスターする英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を開始。※23年12月1日に「トライズ株式会社」に社名変更。
『海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』『孫社長にたたきこまれたソフトバンク式仕事術』などの著書多数。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授