企業が急成長する過程では、まず営業、開発、マーケティングなどの「攻め」の構造が整備される。しかし、上場を目前にした段階で、必ず壁にぶつかるのが、契約や承認の権限フロー、システム上のアクセス統制など「守り」の仕組みだ。この局面で求められるのは、事業成長・組織拡大のスピードを落とさずに統制を組み込む発想で、それを可能にするのがCorpOpsという職能だ。
第1回:BizOpsとは何か? 構想と現場をつなぐ、事業成長の“実行装置”
第2回:戦略が動き出す仕組み──LayerXに学ぶBizOps設計のリアル
第3回:「複雑さにあらがう“設計者たち”」――マネーフォワードに学ぶBizOpsの実践構造
第4回:摩擦を解像度でほどく―jinjerに学ぶBizOpsの現場知
BizOpsが「戦略を動かし続ける装置」だとすれば、CorpOpsは「企業を動かし続ける装置」です。
華やかな成長の裏で、販売管理やワークフロー、ガバナンスの対応といった“地味で厄介な領域”を整える人たちがいます。彼らの仕事は目立たず、泥を啜るように地道です。しかし、その実装力なくして、企業は上場という試練を越えることはできません。
今回取り上げるのは、一般社団法人BizOps協会理事の村本氏。通信会社やメーカーからAIベンチャー、HRSaaS、経営企画まで多様な現場を経験し、上場準備やPMI統制再設計に携わってきた人物です。
「経営の意志を仕組みに翻訳する」――その視点から生まれたのが、CorpOpsという発想です。
IPO前夜の現場で、経営と現場の狭間に立ち、守りとスピードを両立させるために何が行われているのか。泥を啜りながらも前へ進める、仕組み設計のリアルをひもときます。
企業が急成長する過程では、まず「攻め」の構造が整備されます。営業、開発、マーケティング──成果を生み出すための動線を優先するのは自然な流れです。
しかし、上場を目前にした段階で、必ず壁にぶつかります。「守り」の仕組みが追いつかないのです。契約や承認の権限フロー、システム上のアクセス統制.――それらは日常の業務では見過ごされがちですが、IPO準備が進むにつれて一斉に表面化します。
内部統制や監査対応の観点から「今まで通りでは通らない」プロセスが現れ、現場は動きが止まり、経営は焦り、組織全体が一時的に硬直していきます。
この局面で求められるのは、単なる「管理の強化」ではありません。事業成長・組織拡大のスピードを落とさずに統制を仕組みに組み込む発想です。それを可能にするのが、CorpOpsという職能です。
DXやBPRでは、この壁を越えることはできません。それらは「個々の業務」を効率化する手段に過ぎず、組織全体を動かす“中間構造”の再設計には踏み込みません。
IPO前夜に問われるのは、「会社をどう回すか」という運用構造そのものです。この“中間”を見える化し、動かす仕組みを整える――その役割を担うのが、CorpOpsです。
村本氏は、自身のキャリアを振り返りながら「気づけばBizOps的な動きをしていた」と語ります。経営企画として事業部門の現場を理解し、システム構造を把握しながら、経営の意志を具体的な業務プロセスに落とし込む。その積み重ねが、いつしか「誰もやっていないのに、誰かがやらなければ回らない」領域になっていったといいます。
経営会議で決まった方針は、スライドや数値の上では明快です。しかし、その言葉のままでは現場は動きません。承認ルートの設定、権限の移譲、データ定義の整備――それらを“運用の言語”に翻訳して初めて、会社は動き出します。
経営と現場をつなぐこの“翻訳”こそ、CorpOpsの本質です。経営企画でも、情シスでも、管理部門でもありません。
CorpOpsはそのあいだに立ち、経営の「意図」と現場の「手順」を接続します。単なる調整役ではなく、構造を設計する翻訳者です。どんなに正しい経営判断も、翻訳されなければ実行できません。
「経営企画が描く構想を、どう“現場の手順”に変えるか。そのプロセスを自分で設計できる人が少なすぎる」と村本氏が語るように、経営と現場のあいだを行き来しながら仕組みを動かす力こそ、CorpOpsの専門性といえます。
経営の意志を読み解き、制度・権限・フローといった“構造の言語”に翻訳します。CorpOpsは上場準備で意識されがちですが、この役割を担うことで事業成長、効率化では常に必要な存在となり、大企業でこそ本当に必要な機能、「持続可能な仕組み」を形づくる中枢になります。
CorpOpsの現場で最も難しいのは、「どこに線を引くか」という判断です。統制を強めすぎれば現場は動けず、緩めすぎれば監査で止まる。この両極のあいだで、組織を動かす“ちょうどよい線”を探るのがCorpOpsの仕事です。
村本氏は、「正しい仕組みをつくる人ではなく、“動かせる仕組み”をつくる人が必要になる」と語ります。
制度や規定の整備は重要ですが、それだけでは会社は回りません。最も現場を止めるのは、ルールの不在ではなく、“過剰な正しさ”です。本来の意図を超えて管理が複雑化し、承認プロセスが多層化してしまうと、誰も判断できない“灰色の領域”が生まれます。
そこにこそ、CorpOpsの出番があります。経営の意志を守りながら、運用が回る形に落とすなど、例えば、購買や契約の承認ルートを再設計する際には、法務・会計・事業部それぞれの論理を突き合わせながら、「どこを自動化し、どこを人が判断するか」という線を引きます。
その線をどこに置くかで、組織のスピードも安全性も大きく変わります。この判断を支えるのは、構造的な思考、現場の人・業務への理解です。
制度の目的、データの流れ、現場の心理的負荷、それらを全体として捉え、最小限の統制で最大の自由を生む設計を行う、それが、CorpOpsに求められる思考法です。
「正しさを証明することではなく、動かすために納得できる形をつくる」と村本氏が語るように、線を引くとは、管理のための判断ではなく、前進のための設計なのです。
CorpOpsは、統制とスピードを両立させる“現実的な正しさ”を形にする仕事といえます。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授