仕組みを動かすには、図面だけでは足りません。CorpOpsの現場は、文字どおり“泥を啜る”日々の積み重ねです。それは、単に制度をつくることではなく、各管掌、各部署、そして個々の業務が抱える「現場の実態」を全て洗いざらい抽出し、その複雑に絡み合った中間領域を一つひとつ整理していく地道な作業を指します。
例えば、ワークフローの刷新です。理想的な設計を描くことは容易でも、実際には各部門で異なる運用が根を張り、「誰が」「どの権限で」「どの順序で」動かすかを揃えるだけでも一苦労です。
村本氏は、「仕組みは設計より“伴走”が重要」と語ります。
CorpOpsがワークフロー刷新に着手するとき、まず全員の“納得ライン”を丁寧に探りながら、「誰がどの視点で困っているのか」を構造的に整理します。非効率に見えるこのプロセスこそが、最終的に仕組みを長く回し、組織に血を通わせるための鍵になるのです。
この過程は決してスマートではありません。 しかし、こうした泥臭い積み上げこそが、「決めたことが続く」仕組みを支えます。
CorpOpsは、経営の理想を現場に橋渡しする“設計者”であり、同時に、現場の手触りを知る“実装者”でもあります。設計と運用のあいだに身を置き、両者を行き来しながら仕組みを馴染ませていく、この工程にこそ、CorpOpsの真価があるのです。
守りと攻めを両立させることは、多くの企業にとって永遠のテーマです。しかし村本氏は、「守る」と「進める」は対立概念ではないといいます。むしろ、守りを仕組み化することで、攻めが自由になる、それが、CorpOpsの思想の中心にあります。
例えば権限設計です。これは単に「職務権限規程」という文書を整えることではありません。現場の多岐にわたる業務プロセスにおいて、「誰が・どこまで・何を判断するのか」という実態に即した交通整理を行い、それを具体的な運用フローに載せることを意味します。
誰がどこまで判断できるかが明文化され、判断が「人」ではなく「構造」に委ねられるようになれば、迷いや調整コストが減り、意思決定のスピードは劇的に上がります。逆説的ですが、正しくルールを整えることで、組織はより速く、しなやかに動けるようになるのです。
村本氏が大切にしているのは、「経営の意志を翻訳し、線を引き、回るまで伴走する」という3つの原則です。構想を設計に落とし、運用が馴染むまで支え続ける、その一連のプロセスこそが、上場準備を通じて培われる“構造設計の筋力”だといいます。
こうした取り組みは、決してIPO直前になってから始めるものではありません。IPOという大きな節目を一つのきっかけとしつつも、本来は企業のフェーズを問わず、持続的な成長のために育んでおくべき基礎体力だといえます。
統制が仕組みとして自然に機能し、現場が「守られていること」に過剰に意識しなくても正しく動ける状態、それが、CorpOpsの成熟形です。「守りながら進む」バランスを構造で支えることが、企業を次のステージへ、そして上場後のさらなる飛躍へと導く力になるのです。
BizOpsが「戦略を動かす」職能だとすれば、CorpOpsは「企業を動かし続ける」職能です。両者は対立ではなく、連続の関係にあります。
BizOpsが変革の起点をつくり、CorpOpsがそれを持続可能にします。どちらも「人ではなく、仕組みで動かす」思想に根ざしています。華やかな戦略や新しいテクノロジーの裏で、企業を支えるのは、見えない仕組みを整える人たちです。
その仕事は静かで、地味で、時に泥を啜るようなものです。けれども、その努力の積み重ねが、経営と現場の間に通う“血流”をつくり出しています。
CorpOpsは、企業を動かし続けるための“見えない構造”であり、その存在が、成長を持続させる力になるのです。
次回は、hacomonoのBizOps部マネージャー・中嶋牧子氏を迎えます。
食品ECからSaaSへ――オペレーションを横断してキャリアを歩んできた中嶋氏は、「立ち上げ」「拡大」「成熟」という3つの成長フェーズを通じて、仕組みが“生き物のように変化する”ことを体感してきました。
変化を恐れず、現場の混沌に線を引き、判断を前に進める力、現場の中から仕組みを動かす「BizOpsの実装知」に迫ります。
1990年生まれ。神奈川県在住。マニュアル制作会社での制作ディレクションを経て、2017年に株式会社ビズリーチ入社。営業基盤の再構築やSalesforce運用を担当した後、株式会社スマートドライブにて、上場前後の成長フェーズにおける事業部横断の業務設計やSaaS導入・定着支援を推進。2022年よりフリーランスとして独立し、現在は一般社団法人BizOps協会の理事を務める。BizOpsの専門性確立と普及に取り組むとともに、実務者として複数企業の業務構築・運用改善に従事。ライターとしても活動しており、ビジネス、組織論、ジェンダーといったテーマを中心に、構造的な課題への眼差しと現場感を交えた視点で発信している。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授