アブダビとドバイの間の広大な土地の多くはまだ開発中であり、そうした開発現場を陰で支えていたのが、日本の製造業だった。
2026年2月24日、米国・イスラエルによるイラン攻撃とハメネイ師の死去という衝撃的なニュースが世界を駆け抜けました。イランは報復を開始し、サウジアラビアは自衛権を表明、UAEも反撃を検討する事態となっています。中東情勢は、一気に新たなフェーズへと突入しました。
ドバイも今回の攻撃の標的となりました。空港コンコースの損傷、ブルジュ・ハリファ周辺での火災、エミレーツ航空の運航停止。UAEは大規模な油田を持たないがゆえに、シンガポールをモデルとした金融・物流ハブ戦略を国家の根幹に据えてきました。人口の9割を外国人が占めるその機能が、今まさに脅かされているのです。
実は私は、2026年2月にUCLA・NUSのEMBAプログラムでUAEに2週間、インドに1週間滞在したばかりです。そこで私が目にしたのは、ブルジュ・ハリファがそびえ立つドバイの急速な発展でした。訪問した企業では世界120カ国前後の人々が国籍を問わず働いており、資本のトップは現地人ながら、実務を担うのはフランス人やドイツ人などの高度人材です。まるで明治時代の「お雇い外国人」のような構造が、現代の砂漠の中で機能していました。
一方で、アブダビとドバイの間の広大な土地の多くはまだ開発中であり、金融センターには莫大な資金が集積して不動産市場も活況を呈しています。インドの富裕層もドバイの高級物件を競って購入し、週末に訪問するスタイルが定着していました。ただ、新築物件の明かりはまばらで、バブルの様相も色濃く漂っていました。
率直に言えば、「砂上の楼閣」という言葉が頭をよぎったのも事実です。しかし同時に、グローバル化した現代では、ヒト・モノ・カネという経営資源が世界規模で集まれば、これほどの急速な変化が実現できるのだという事実を、肌で実感しました。
そうした開発現場を陰で支えていたのが、日本の製造業です。工事現場では三菱自動車のトラックが走り、街中にはホンダや三菱の乗用車が溢れていました。インドでも電力不安が続くためガソリン車が依然として主流で、工場の工作機械の多くは日本製、「なぜなぜ分析」や「かんばん方式」が現地に深く浸透していました。グローバルな資本と人材が集まる場所でも、現場を動かしていたのは日本の技術とモノづくりの哲学だったのです。
「メイド・イン・ジャパン」への根強い信頼を現場で目の当たりにして、私は確信しました。日本の国力は、本質的には衰えていない、と。現在、米国ではグローバル化したサプライチェーンを再構築することが難しく、製造業の再建は困難な状況にあります。しかし日本には、製造業の根幹がまだ生きています。では、その強みはこれからの時代にどう活かされるのか。その答えを示す象徴的な存在が、時価総額約23.9兆円にまで成長した日立製作所です。
日立の成長を牽引しているのが、デジタルプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」です。
その競争力の核心は、「ドメインナレッジ×AI」という組み合わせにあります。電力・鉄道・製造・公共・金融といった社会インフラの現場で人的に100年以上にわたって培ってきた固有のノウハウをAIに組み込み、社会インフラをトランスフォームするサービスとして提供しているのです。NVIDIAのような汎用演算能力で競うのではなく、「現場に深く溶け込んだドメインナレッジ」という独自の土俵で戦っているのです。
エナジー領域では伊ERG社に送電網監視ソリューションを提供し、現場検査時間を約35%削減しました。モビリティ領域ではコペンハーゲンメトロをはじめ2000編成以上に展開し、保守コストとエネルギー消費量をそれぞれ最大15%削減しています。
コネクティブインダストリーズ領域ではダイキンと工場設備の故障診断AIエージェントの試験運用を実施し、10秒以内に90%以上の精度で故障原因と対策を回答できることを確認しました(注1)。
こうした強みを背景に、ルマーダの売上収益はFY2024通期で3.0兆円(全社売上比率31%)に達しています(注1)。新経営計画「Inspire 2027」ではFY2027末にルマーダ比率50%を目指し、長期的には売上の8割をルマーダで占める「LUMADA 80-20」を掲げています(注2)。
中東の混乱が続く今だからこそ、あらためて問い直してほしいのです。「日本の強みとは何か」を。それはそれぞれの会社が長年をかけて蓄積してきたドメインナレッジです。これは他国の企業には容易に真似のできないものです。
もちろん業種によって適用方法は異なりますが、日本企業はLumadaと同じ戦略を各分野に応じて展開すべきです。これこそが、不確実な時代に日本が独自の強みを生かして世界で戦い続けるための戦略なのです。
1972年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経て1998年にソフトバンク入社。2000年ソフトバンク社長室長に就任。孫正義氏のもとで、マイクロソフトとのジョイントベンチャーや、日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収、およびソフトバンクの通信事業参入のベースとなった、ブロードバンド事業のプロジェクトマネージャーとして活躍
2006年に「トライオン株式会社」※を設立。2015年に、ビジネスレベルで通用する英語を1年でマスターする英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を開始。※23年12月1日に「トライズ株式会社」に社名変更。
『海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』『孫社長にたたきこまれたソフトバンク式仕事術』などの著書多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授