IT経営の変遷と本質――経営とITの親密なる関係はいかに築かれたか潮目を読む(1/2 ページ)

ビジネスにおいて将来訪れる潮目を正しく読み取れるかどうかが、経営者の明暗を分けます。そのためには、これまでの世の潮流を深く知ることが不可欠と言えるでしょう。

» 2009年06月30日 08時00分 公開
[椎木茂(IBCS),ITmedia]

 経営とは大海原で、晴れの日、荒れる日などの環境変化を受けながら、潮の流れを読み、かじをとることに例えられるでしょう。潮の流れそのものはコントロールできませんが、潮目を読み、進むべき方向を決めることは経営者として必須の能力です。

 本連載では、過去にどのような潮流があり、今後どのような潮目が訪れようとしているのかをつづります。第1回は経営とITの関係性の変遷について述べます。今でこそ、ITは経営の重要な道具であり、その道具をいかに生かすかは経営者にとって重要な課題となりましたが、そうなるまでには長い年月がかかっているのです。

手作業の代替・効率化手段から意思決定支援へ

 1960年代以前のコンピュータは、軍事目的や宇宙開発など国家レベルのプロジェクトで活用されるようなものでした。徐々に価格が下がり始め、1960年代から一般企業でも導入が始まりました。当時のシステム導入と言えば、EDPS(Electronic Data Processing System:事務計算システム)といって、会計、給与計算、売り上げなどそれまで手作業で作成、集計していた帳票作成業務を効率化するものが中心でした。よって業務ごとに独自のプロセスや仕様があり、日常業務を代替するものだったため、その導入や活用などは経営課題として検討されることもなく、システム部門へ丸投げされることが一般的でした。

 システム化の仕様要件はすべてユーザー側から出され、今では考えられませんが、カスタムSIサービスは、高価なハードウェアのおまけという扱いでITベンダーが無償で行うことが多かったのです。

 その後、1970年〜1980年代前半にかけてハードウェアの大容量化、高性能化とともに、MIS(Management Information System:経営情報システム)、DSS(Decision Support System:意思決定支援システム)といった経営にデータを生かす手法が欧米から入ってきて、手作業の代替から意思決定に必要な情報を必要なときに提供することを目的とした経営支援システムへと変貌していきます。

グローバル対応・BPRへの活用により改革の一手段へ

 1980年代後半になると老朽化したシステムの更改時期が訪れます。このころには古いシステムはブラックボックス化しており、開発時の資料も不備であることが多かったため、システムを刷新するにあたっての要件定義は困難になっていました。アプリケーションも給与計算、会計、発注など個別システムだったものを、統合システムとして運用するべく高度化しました。加えて、グローバル化が進んだことにより、日本固有、企業固有のビジネス要件では米国やヨーロッパなどのグローバル企業との競争は難しくなってきました。

 対応の仕方は2つありました。1つはグローバル化を見据え、BPR(Business Process Reengineering)の手法を用いて、業務や組織を抜本的に見直し、情報システムを再設計(リエンジニアリング)するというもので、欧米のパッケージを「あるべき姿(To-Be Model)」として、日本化、日本語化して若干の修正を加えて導入するやり方でした。80年代にはMSA(Management Science of America)、M&D(McCormack & Dodge)などのソフトウェアが主流でした。

 2つ目は企業のあるべき姿をTo-Be Modelとして論理的に定義し、BPRという手法で業務をTo-Be Modelに合わせ、システムを各社固有で開発導入するやり方です。必然的にこのアプローチは大規模開発になるため、長期間の導入期間を要し、コストも膨大になったわけです。

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