「出現する未来」を実現する7つのステップ――プレゼンシング:Presensing(後編)U理論が導くイノベーションへの道(1/2 ページ)

自分の考えが否定されると傷ついた体験が残るが、否定を避けていては現状を越えられず限界が生じる。

» 2013年01月22日 08時00分 公開
[中土井 僚(オーセンティックワークス),ITmedia]
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 われわれが普段「手放す」という言葉を使う時「車を手放す」とか、「マンションを手放す」といったように、何かしらの所有物を文字通り「自分の手から放す」ことを指すのではないかと思います。

「手放す(Letting Go)」ことから未来は出現する

 U理論の中では、この「手放す(Letting Go)」という言葉は、「所有物を手から放す」以上の意味が含まれた形で使われています。それは、端的にいえば「執着そのもの」を手放す。もう少し、正確にいえば、何らかに対して“Identify”(自己同一視化)した状態を手放すということを意味します。

 われわれ人間が持つ生存のメカニズムは、何であれ「自己同一視化」したものをどんな手を使ってでも、生存を図ろうとします。単なる物質の塊である自分の肉体に対して、われわれは普通「自分そのもの」として自己同一視化して扱うので、自分の肉体の生存を図ろうとします。それだけでなく、自分の子供であれば、自分と同じく、もしくは自分以上に子供の生存を図ろうとします。それが故に、子供の行く末が無意識のレベルで心配になり、子供が勉強しないと必要以上に怒ってしまうことが生じえます。

 それだけでなく、われわれはモノに対してもいつの間にか自己同一視化します。例えば、携帯電話を失くしてしまったり、壊してしまったりすると、異常に動揺する人も多いのではないかと思います。ポケットティッシュを落としたとしても、そこまで動揺することはないでしょうが、携帯電話だと下手をすると数週間に渡って落ち込んだりもします。

 これも単なる物質の塊である「携帯電話」というモノに対して、自己同一視化している証拠となります。また、そうした物質だけでなく、自分の思考や、セルフイメージといったものに対しても自己同一視化するため、自分の考えが否定されたりすると傷ついた体験が残ります。しかし、セルフイメージを守ろうとすることは現状を越えられず、その人にとって限界が生じていることへの忠告でもあります。

 オットー博士はこうした自己同一視化という生存への執着を手放せた時、プレゼンシングに至り、未来が出現すると捉えています。そういう意味で、昨今「片づけ」ブームとなっていますが、片づけをすればするほど、モノに対しての執着が手放され、新しい未来の出現を迎え入れられるという観点がそこには存在していると言っても過言ではありません。

「死ぬ」ことから生まれるリーダーシップ

 改めて、伏見工業のケースに立ちもどってみた時、山口さんは一体何を手放したといえるのでしょうか?それは、おそらく「俺は元オール・ジャパンだ」、「俺は監督だ」、「俺は教師だ」というセルフイメージそのものへの執着だったのではないかと思います。

 矢印が自分に向き、開かれた心にアクセスし始めた時「本当にすまん」という心からの気持ちが山口さんの中で充満していきます。その時、初めてこれまでのセルフイメージが壊れ「俺の言うことを聞かなかったぶざまな部員」として部員を扱うのではなく、一人の人間として部員達を見つめることができたのではないでしょうか?

 もし、彼がそのセルフイメージを手放せないまま、試合終了を迎えていたとしたら「俺の言うとおりにやらないから、このざまだ!分かってるのか!!」と部員を叱り飛ばしていたかもしれませんし、怒ったまま、一言も部員と交わさず、さっさと試合場を去っていたかもしれません。そんな状態では、部員と距離が縮まるどころか、益々広がっていたことは想像に難くありません。

 彼がそのセルフイメージを手放した決定的な瞬間が、「お疲れさん、ケガはなかったか。悔しかったやろな」という一言です。自分の内面の気付きを内面だけに留めるのではなく、それを表に態度として表明することは、多少なりとも抵抗があるものです。山口さんは元々器の大きい方なので、そういった抵抗はなかったとは思いますが、それでも、これまでの偉そうにしていた自分とは全く違う優しい態度で自分を表現するというのは、多少なりとも居心地の悪さがあったでしょう。そうしたセルフイメージの生存からくる居心地の悪さを乗り越えて、一歩踏み出し、自分を表現することそのものが、まさに「手放す」瞬間といえます。

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