日本の弱点は変化に対するスピード――先を読む努力がいままで以上に必要になるNTT DATA Innovation Conference 2014リポート(1/2 ページ)

日本人には目標が設定されればそれに向かって目覚ましい仕事をするという資質がある。そのときに必要なのが多様性とスピード。みんなが同じことをしていたのでは、世界のスピードにはついて行けない。

» 2014年02月26日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 NTTデータは1月24日、「New Growth, New Global――その先にある未来創造」をテーマに「NTT DATA Innovation Conference 2014」を開催。基調講演には、外交評論家であり、マサチューセッツ工科大学 CISシニアフェローの岡本行夫氏が登壇し、「激動する国家情勢と日本の課題 日本が世界で生き抜くために必要なこと」と題した講演を行った。

スピード化の時代にはオープン性が不可欠

 「すさまじい勢いで情報が発信されている現在、そのスピードを考えるとソーシャルメディアや携帯電話を活用するのは有効だが、小さな画面で自分の思想や考えを発展させていくことはなかなか難しいかもしれない。私自身はITの専門家ではなく、ITを駆使する能力はたいしたことないが、IT化が進むと情報が断片化するのではないかという思いがある」と岡本氏は語る。

岡本行夫氏 外交評論家、マサチューセッツ工科大学 CISシニアフェロー

 岡本氏が在籍しているマサチューセッツ工科大学(MIT)は、世界の大学ランキングでナンバーワンである。現在、第2位はケンブリッジ大学で、第3位はハーバード大学だ。岡本氏は、「残念ながら日本の大学では東京大学がランキングの30位に顔を出すにすぎない。日本の教育のあり方を考え直す時だ」と話す。

 「1年前からMITに在籍しているが、MITでは毎日どこかで各分野の専門家を招いたオープンなセミナーが開催され、活発な議論がなされている。日本では秘密保護法が制定されたが、秘密の「保護」は必要だと思うが、秘密の「開示」の方は不十分だ。MITでは、あらゆる情報にアクセスすることができる。このオープン性こそが、教育や科学技術の進歩に不可欠だと思っている」(岡本氏)。

 日本人はチームワークにより一歩一歩進んでいく「インクレメンタル」な作業は得意だが、ブレークスルーが必要な作業は苦手としている。岡本氏は、「シリコンバレーのようにジーパンをはいた若者が一晩でプログラムを書いて新しい価値を創出するような自由な風土に近づかなければならない。みんなが同じことをしていたのでは、世界のスピードにはついて行けない」と言う。

 岡本氏は、「ボストンでは、州法によりレストランで1人2杯しかシャンパンを頼むことができない。そのため1人でボトルをオーダーすることはできないが、グラスであれば何杯でも飲むことができる。これを“いい加減”と思うか、“柔軟性”と思うかだが、私自身は後者だと思っている」と会場を笑わせたあと、「MITでは講演をする傍ら、日本から見た日米関係についての本も執筆している」と話した。

人口の増加が世界の構造を形成する最大要因

 世界の人口の変化はすさまじく、有史以来、1800年に地球上の人口が10億人に達してから、130年後の1930年に20億人、30年後の1960年に30億人、15年後の1975年に40億人、12年後の1987年に50億人、12年後の1999年に60億人、現在は70億人と、人口が10億人増える期間は信じられないほど短くなっている。

 爆発的な人口の増加こそが、現在の世界の構造を形成する最も大きな要因である。人口の増加により、食料、資源、エネルギーに負荷がかかるが、同時に、すさまじい勢いで市場が広がっている。情報も爆発的に増加している。爆発的な人口増加時代の情報化においては、オープン性が重要になる。

 岡本氏は、「1990年代初めに私がPCを使いはじめたころには、ハードディスク容量が800MB程度だった。いまや自分が使ってる小さな外付けディスクは2テラ。当時のフロッピーディスク200万枚分が手の平の上に乗る。さらに、ペタバイト、エクサバイトの時代に入る。素晴らしいことだが、多すぎる情報が断片化されないよう注意すべきだ」と話す。

 人口が増えているだけでなく、世界の競争力の関係も変化している。1990年の途上国の 国内総生産(GDP)は、世界のGDPの20%だった。現在はそれが38%まで増加している。特に中国は1990年には世界のGDPの2%に過ぎなかったが、いまや世界の12%を占めるに至っている。

 米国のGDPは27%から23%に減少しているものの、世界の4分の1のシェアを維持している。米国は人口の増加も著しく、現在は3億人を超えている。少し前までは2億6000万人で日本との比率が1対2だったが、2050年には4億2000万人になる。そのとき日本は9400万人に減少していることが予測されており、人口比は1対4.5に開く。

 岡本氏は、「GDPの世界シェアが後退しているのが日本で、1994年には17%だったのが、現在は7%にまで低下している。今や、日本の市場の90%以上が海外にあるということで、グローバル市場への関わりなしには生存できない。経済成長率は、人口と生産性の伸び率を足したものだ。これまで人口の多い地域は貧困や疾病などが多いという負の側面からとらえられていたが、これからは人口の多い地域は経済成長力も高いという意識に変えなければならない」と言う。

 こうした状況下において、日本の対外関係は難しくなってきている。

 「日本は、周辺諸国のすべてと国境紛争を抱えている。このような国はほかにはなく、1945年からまったく前進していない。特に押しまくられているのが尖閣諸島。中国は昨年末に防空識別圏を設定した。中国が設定した領域を通過する民間航空機は中国に向かわなくても飛行計画書を報告を出せというメチャクチャなものだ」(岡本氏)。

 米国は軍事的には日本と同じ立場で、戦略爆撃機であるB52を飛行させて対抗したが、民間航空機は中国に報告をしている。岡本氏は、「日本と米国の足並みが初めて乱れた。これは深刻な事態。尖閣諸島も含め、中国はアグレッシブな外交政策を仕掛けてくる。ここに韓国も中国に連携しており、日本の立場が難しくなっている。思い切った外交と対外広報戦略が必要だ」と話す。

 また世界的に大きな問題になっているのが格差の拡大である。岡本氏は、「2014年1月に開催されたダボス会議でも大きなテーマになったが、世界でもっとも裕福な1%の人たちが持っている富が世界の個人資産の43%で、次の9%の人たちが持っている資産は40%。上位10%で83%の富を持っている。こうした状況が続くのだろうか」と話す。

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