SOA×標準化=「新・ものづくり国家」Top Interview(2/3 ページ)

» 2008年01月09日 07時00分 公開
[聞き手:浅井英二,ITmedia]

差別化要素を見極める

ITmedia SAPPHIREのステージで八剱さんは、コンピューティングの歴史は、部品化、汎用化の歴史だと話しています。こだわりの強い日本の企業には当てはまらないのでしょうか。

八剱 IBMやAT&Tでは、アプリケーションは本社がつくり、子会社が独自に何かつくるということはありませんでしたが、日本テレコムやウィルコムでは、エンドユーザーの要件を整理し、開発しなければならず、彼らのこだわりのすごさを目の当たりにしました。

 どこが本当の差別化につながり、どこが単なる習慣にすぎないのか。それを見極めるのはとても難しく、エンドユーザーとじっくりと話をしなければ判定できませんでした。当時は、日本のこういう土壌では、標準化されたソフトウェアを導入するのは、かなり大変だと感じていました。しかし、その一方で、日本の国全体のことを考えると、いつまでも1社1社が微妙に違うプロセスを維持していくことが正しいのか、疑問も抱いていました。

ITmedia ユーザー時代にパッケージソリューションの導入が難しいと感じた八剱さんが、SAPジャパンの社長に就こうと考えたのはなぜですか。

八剱 SOA(サービス指向アーキテクチャ)について調べる機会があり、これが世の中に浸透してくれば、エンドユーザーの微妙な違いにもパッケージソフトウェアで対応できると感じました。標準的なプロセスで行われるべきところにはそのままパッケージを使い、エンドユーザーがこだわる部分には、SOAによって小回りが利くようにしてあげる、といった「いいとこ取り」の芸当ができるようになります。かつてのパッケージは、「ソフトウェアに仕事を合わせてくれ」というメッセージでしたが、今後は、ある部分は顧客のニーズに近い部品に取り替えてやることで随分とエンドユーザーに歩み寄ることができます。交換可能な部品によって選択肢の幅が広がれば、カスタムメイドに近いアプローチを取りながら、標準化の恩恵も得られるはずです。

ITmedia IBM時代に部品化、汎用化の潮流を感じたことはありますか。

八剱 今日のIBMは、汎用のオペレーティングシステムが生み出したときに誕生した、とわたしは考えています。System 360という汎用のOSをつくったのが大発明でした。それまでは、OSを組むところから始める「一品一様」でしたが、ハードウェアとOSまでは共通化でき、システムの構築は効率化され、IBMも大きな利潤を得られるようになりました。

 時代が流れ、ハードウェアは安くなり、OSも無償化が進んだことによって、IBMは、顧客の業務を丸ごと受託するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に活路を見出し、サービス化を進めていますが、利益を確保するためには、どのみち業務の標準化、汎用化が避けて通れません。

エンタープライズSOAで部品間連携を保証

ITmedia そうした部品化、汎用化の流れを、経営者や情報システム部門はどのように生かせばいいのでしょうか。

八剱 われわれのERPは、35年の歴史の中で培われてきたものです。基幹のプロセスにSAP ERPを導入している既存ユーザーにとっては、これを部品化する、といってもピンとこないはずです。部品化の恩恵は、ERPのコアにあるのではなくて、業種に特化した、例えば、製造計画を立案するアプリケーションが外部にあって、それをERPと動的に連携させようとしたとき、われわれが提唱するエンタープライズSOAをベースとしていれば、まるでSAPのモジュールかのように容易に追加できます。

 今のERPをもっと見える化し、リスクをコントロールしたいと考えている顧客のために、「統制」(Governance)、「リスク管理」(Risk)、および「法令順守」(Compliance)に対処する、いわゆる「GRC」ソリューションもSAPは部品化して提供しています。ERP本体がエンタープライズSOAベースに移行していれば、その恩恵も得られます。

 また、SAPで標準化されていない顧客にとっても、異種混在環境においてアプリケーション間の相互連携を保証しなければならないとすれば、エンタープライズSOAの恩恵はあります。ERPはカスタム開発、人事はSAP、製造はX社、という環境においてもエンタープライズSOAによって連携させることは可能です。

ITmedia SAPPHIREで経営者の方々にそうしたメッセージを伝えたと思いますが、実際にどのような反応が寄せられましたか。

八剱 SAPのERPには、依然としてSAP R/3のイメージがつきまとっています。最新版はSAP ERP 6.0ですが、それを口にする人はほとんどいません。R/3のイメージは頑固で窮屈なものであり、そのうちの一部を使うという考え方はなく、エンタープライズSOAのメッセージは矛盾して聞こえるという声もありました。

 しかし、ERPの改良を続けてきた結果、われわれは膨大なアプリケーション群を抱えています。そこで、エンタープライズSOAをベースとした「BPP」(ビジネスプロセスプラットフォーム)によって基盤を標準化し、これを基にアプリケーションを開発する道を選びました。こうして生まれたのが最新版のSAP ERP 6.0です。 これは明らかに競合を招き入れる施策でもありました。エンタープライズSOAに基づいて書かれたアプリケーションであれば、われわれのモジュールと遜色のない連携が保証されるからです。これをポジティブに捉え、エコシステムを構築するという、これまでにない顔をSAPは見せ始めています。

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